2009年01月11日(日) |
32話 『2人の晩餐』 |
ドーラは車両を止めて各部の点検を始めた。 サウムも見よう見まねで手伝っている。 カミロデスタイプは先頭車両の後部座席にどっかと着いたままスリープモードに入った。 機械の彼にも眠りがあるのだ。 10分程して、2人の男は2両目のコンテナを改造した車両に入って、 少し早い夕食の支度を始めた。 トレーラーハウスには簡易キッチンやシャワールームが完備されている。 今夜の献立も昼に食べたものと同じだった。 海獣の干し肉と脂身の塩漬けを炒めたもの、オキアミ粉を水で練って焼いたもの、 クロレラスープ。2人とも充分に食い飽きていたが、栄養バランスはとれていた。 小さなテーブルを挟んで寝台兼ソファーに2人は向き合って腰を下ろす。
「ガガスさん、今日でどれくらい来ましたかね?」
「そうだな・・・1/3と言った所だろう。先はまだ長いよ」
フォークとナイフを使って肉片を刻みながらドーラは答えた。
「さっきの続きですが、この星が今の様になったいきさつを聞かせてもらえませんか?」
「ああ・・・いいとも。と言ってもオレが答えられるのは公務員試験に出た所だけだがな」
「・・・・・・」
少し笑うサウム。
サウムは若者らしい好奇心の塊みたいなヤツだなぁとドーラは思う。
「南大陸が北大陸に向けて遺伝子を改造した虫を放った所まで話したよな」
「ええ。南北間では長い間領海を巡る紛争が絶えなかったんですよね」
オキアミで出来たものを旨そうにほうばりながら相槌を打つサウム。
窓の外ではヒカリナメクジが星空のような光景を作っていた。 まるで本物の星空のようだった。
「北大陸の穀倉地帯は壊滅的打撃を受けたんだ。 時代を経るにつれ、虫を使った攻撃は泥仕合と化していった。 現在見られるオニカマドウマはそんな生物兵器の末裔だ」
「・・・・・・」少し前のめりになって話に聞き入るサウム。
「人々は地下生活を余儀なくされた。始めの頃はジオシリンダー・・・ 今では遺跡と呼ばれているが、そこの周辺で農作物を栽培していたんだが、 外敵から守る為にはコストが掛かり過ぎた。 あの黄色い相棒・・・カミロデスタイプはきっとそんな時代に守衛として 働いていたに違いない。 そのうち人々は海上に人口環礁を造って農作物の栽培を始めた。 虫には海を渡るだけの飛翔能力が無かったからね。 ジオシリンダーは一種の都市国家なんだが限られた 食料を巡ってしだいに争うようになった。 街は経済不安、治安の悪化が進むにつれ無人化していった」
「今のように人口環礁に移り住んだんですね?」
「そうなんだ。そして現在の様に海運が盛んになっていった。 これはオレの私見なんだが、人間はもともと大空の下でしか生きられない 生き物なんじゃないかな」
「・・・地下生活は辛いですよね。今こうして地下の旅をしている間、 ボクは空の青が恋しいですもの」
「ふふ」
食事の仕上げに熱いスープを飲み干した2人は、 ソファーの背もたれを倒し、ベッドをこさえるとゴロッと横になった。 サウムが大きなゲップをした。 ドーラはそんな遠慮の無いサウムの態度が気に入っていた。
「星空みたいですね、外」とサウム。
「あれが無数のナメクジだと考えなければ充分ロマンチックだな」
「そうですね」
ドーラは腹這いになって上半身を起こすと走行日誌にペンを走らせ始めた。
「書く事有るんですかぁ?」
「有るさ。○月○日異常無し」
「それだけですか?」
「あとは内緒だ」
「ガガスさんは謎が多いなぁ・・・」
「まあな」
今度は2人揃って少し笑った。
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