2004年01月05日(月) |
19話 『コモナとキーム』 |
虫拾いの青年コモナはいつもの様に、 後部デッキのハッチから上半身だけ出して、周囲の警戒をしていた。 高倍率の双眼鏡は目の周りに押し当てられて顔と一体化している。 そろそろ下で干し肉を噛んでいる仲間に交代を願おうとしたその時、 遥か彼方の砂丘の向うに、冴えたブルーの点々を見つけた。
アレはなんだろぅ。。。 コモナは双眼鏡の倍率を調節して、それらの正体を探った。
アレは……人だ。 歩いているらしい。 かなりの人数だ。 ざっと見て100人はいる。 族長のモーウィがいつのまにか彼の背後に立っていた。
「あいつらか? ふん…『巡礼者』だよ」
とモーウィ。
「あんな派手なアーマードスーツで何をしようってんですか?」
双眼鏡から目を離して振返るコモナ。
「苦行により自らの罪を砂で洗い清めるつもりらしいが、 まぁ実際やっている事はトレジャーハンターなのさ」
「しかし遺跡の管理はかつての移民局が…」
「どこにだって抜け穴ってのはあるのさ。あくまで巡礼だからね」
「宗教を傘に着たハイエナですか」
「せいぜい虫に気をつけておくれってところか。ふ…」
二人のまとったフード付きのポンチョは風にはためいて音を立てた。 モーウィのフードにかしめられているバンダナは、 凝った彫刻の施された革製だ。それが族長の印である。 コモナはチラとそのバンダナを見る。かすかな憧憬の念を込めて。
夕暮れの虫ガラ拾いの作業が一段楽した頃。 コモナと、リアラの養女キームが小高い岩陰に腰を下ろしている。 小休止だろう。 少年は風の音に耳を傾けながらぽつりぽつり話し始めた。
----ここは、遥か大昔はこんなんじゃなかったんだって。 僕らの部族はその頃は森というところに住んでいたんだ。 森なんて言っても絵でしか見たことが無いけれど。 自然と調和したとても豊かな生活を送っていたんだって。 いまは絶滅してしまった哺乳類もいっぱい獲れたんだ。 独り占めや、溜めこんで財産にするヤツなんていなくって、 みな平等に分け合って生活していたんだ。 だけど他の多くの人間達は貪欲すぎた。 目先の豊かさに目がくらんでなんでもかんでも獲り尽くして、 自然の形を変える事で豊かになれると信じていた。 地下資源を独り占めしたくて仕方が無い連中は、 僕らのような少数部族を一掃してしまおうと考えたんだ。 そうすれば森の下の地下資源も自由に出来るからね。 大昔、DNA操作された昆虫が世界を滅ぼした。 その末裔がいまだに丘を席巻している。 ボクらは森を失ったけれど、代りに生きる術を見つけたのさ。 ボクらの森を食い尽くしたムシを生活の礎にしちまったのさ。 可笑しいだろう…?
コモナとキームは立ち上がり、トライホイールの前輪に近づいた。
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