砂丘に続く彼の足跡は
蟻の行列にも似てどこまでも果てしない。。。
天界の観察者は、絶望の眼差しを向ける。
地平線の墓標は、かつての高層ビル郡。
傾(かし)いだその姿は、哲学者の風格を漂わす。
六本足の彼が、歩みを止めたのは
何も発見できなかったから・・・
この世界に、命あるものは残っていなかった。
観察者の予測どおりとはいえ
虚しいものがあった。
彼は、全ての足を切り捨て、ブースターに点火した。
天界へと上昇しながら見下ろす。
嘗(かつ)ての蒼い惑星、
火星と呼ばれる赤い球体が、小さくなってゆく。
全ては、彼の歪んだ瞳に映って美しかった。
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野生化した偵察グライダーが、コンドルの様に旋回する赤い空・・・
扇状地の景色は、スケール感のないパノラマ。
プラチナの輝きを放つ球状都市郡は、
ココアケーキにまぶしたアラザンを思わせる 。
六本足と五つのカメラアイを持つ彼・・・残された者
この赤い惑星に生命を発見したことは、天空の観察者へは知らせなかった。
あれは偶然だった。
彼のソナーは足元の巨大な空洞をたどった。
球状都市は、地底を移動しながら軌跡に壮大な迷路を残していく。
。。。果たして扇状地に半身を浮上させた生命球のコロニー。
〈あの中の住人がどのような者であれ、そっとしておくべきだ〉
彼の人工知能は判断した。
そして・・・ここを旅立つ日の遠くないことも
知っていた。
上空を舞う仲間たちが、虚無の天空にむけて、
最期の記念写真を送信した。
〜END〜
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