Juliet's Diary
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”これから、この車の中でのこと、忘れてくれる?”
結局、3ヶ月、というのは、勘違いで、実際は、もっと、短い。 あっという間の、2ヶ月だった。スマコン、あったし。
おいかしいと、思っていた。なんか、ヘンだ、と、思っていた。 木村に話すと、木村も、そう思っていた。 たっくんに、話したら、不思議そうな顔を、した。 世の中に、”女のカン” というものが、存在することを、知った。
”つよしくんさ・・・。会社、辞めるの?” ”そうだよ。もう、辞表、出して、受理された”
辞表は、まだだと、思っていた。すごい、ショックだった。
”オレは、やる気のある職場で、働きたい”
その言葉に、返す言葉を、わたしは、持っていなかった。
”やる気出せ、って、言うけどさ。 ほんとうに、やる気のあるヤツは、辞めていっているんだよ” 昔、担当だった、営業マンが、言った言葉。 ”だから、ここに残っているのは、やる気がなくて、低能、で、バカばっかだ! おまえら、みんな、バカだ! バカ集団で、売上なんか、上がるわけねーだろ!”
営業部、どっと、バカウケ。ほんとうに、そうだと、思った。 自分は、やる気もなくて、特技もなくて、どうしようもないから、 ここに、残っているのだと、痛感した。笑うしか、なかった。
”アイツと同期なのも、イヤなんだよね”
アイツとは、社長の息子。いわゆる、Jr. 通称、デ部長。 わたしと、つよしと、同じ歳。
ちなみに、”つよしとらぶらぶ忘年会” のメンバーは、 たっくんを除く、3人全員が、Jr. と、同期。 年齢も同じで、いっしょに、営業所を、新規に立ち上げたりと、 苦楽を共にし、デ部長の信頼も、篤い。 彼らも、それが、わかっているから、まだ、ほぼ、平社員のクセして、 役員デ部長に、容赦なく、苦言を、進呈している。
つまり、将来の社長の、両腕ともなる、メンバー達。 まるで、出世するのが、わかっているような環境も、イヤなのだと。
確かに、つよしは、出世するだろう。 特に、管理部門では、需用は、高い。 業務、営業、センター、そして、資材。 当社の、総務経理以外の、その全ての業務を、経験している。 そういう若手は、いまのところ、つよししか、いない。
”世の中は、そんなに、あまかへんで”
まさか、社長に向かって、やる気のない会社だから、とは、言えまいに。 今日、つよし、最後の出社日に、社長自ら、お声かけ。 もっと、世の中を、見てみたい、と、ウソ八百?の、つよしの、言い訳。
”この8年を、捨てて、また、1から、はじめるつもりなんか? うまくいけばいいけど、そんなに、世の中、甘くないで”
昼休み。つよしの席とは、背中合わせ。 わたしは、お弁当を食べながら、背中で、聞いている。
”次のは、決まってないんやろ?” ”しばらくは、就職活動です” ”お前、営業がダメだったのは、自分でも、わかっとるやろ?” ”はい、わかっています” (実は、つよしは、営業部では、数年、ということもあり、 あまり、よい成績を、残していない。勿論、つよしは、自覚している)
”それやったら、なおさらや。 お前は、ここ(管理部門)では、なかなか、いいようやんけ”
がんばれ、社長! 今更、って、気もしないけど、世の中、どう、ころぶか、わからない。
”世の中を、見たいなんてな、若い男には、あるもんや。 カミさんが、おってもな、他の女と、××したいことと、おんなじや”
はっ? 社長、なにを、おっしゃって? 今は、そんな、話とは、ちょっと、違うような。 つよしも、チカラなく、わらってるやんけー!
”まぁ、それとは、次元が、ちゃうがな。でも、そういうことや”
あのー・・・。ちょっと、それは、大分、話が、脱線して・・・。
”オレは、まだ、受け取って、おらんで”
ふっ、っと、空気が、変わる。 つよしの勤務予定は、実は、9/15まで。 今日が最後なのは、有給消化が、あるからで、実際の退職日は、2週間後。
”オマエが、辞めてくれて、よかったとか、使えないとか、 オレは、そういうことは、一切、聞いておらん。 むしろ、辞めて欲しくない、と、聞いておる”
お弁当の箸が、止まってしまう。
”営業からひとり、後任にするようやけど、 ソイツが、管理で、でけるかは、やってみな、よう、わからん。 でも、ソイツは、営業部では、でけている。オマエも、管理で、でけている”
社長が、ぽんと、つよしの肩を。
”あと、15日。家で、ゆっくり、考えや・・・”
涙が、止まらない。 ぱたぱた、ぱたぱた、止まらない。
つよしが、辞めることが、悲しいのか? 社長が、優しいから、うれしいのか?
引き止められずに、退職する人も、多いのに。 社員数だって、そんなに、少ないというワケじゃ、ないのに。
”じゅりさん・・・。はい、ティッシュ・・・・”
業務課では、トイレットペーパーが、常備してある。 でも、今回は、鼻炎者の、たっくんが、自前の、やわらかテイッシュを。
わたしの、鼻をすする音だけが、社長の去った後に。 でも、つよしは、なにも、言わない。 おそらく、社長が言っても、彼の気持ちは、変わらない。
”じゅりさんも、いっしょに、いなくなっちゃえばいいのに”
前述の営業マンが、軽口で。(軽口魔王が、多いのよ)
”うん。わたし、つよしくんに、ついていくの” ”あら。つよしくん、よかったわねー。じゅりさん、ついってってくれるって” (コイツは、男だけど、おねえ言葉です)
そしたら、つよし!
”じゅりさんが、オレに、ついてきてくれるのは、うれしいんだけど(笑)”
わたしも、営業も、びくっり! ”つよしくん・・。冗談でも、あまり、聞きたくない言葉だったよ・・・” ちょっぴり、いや、かなり、薄気味悪い。
そしたら、案の定、最後の挨拶は、 ”もう、一生、会わないと思うけど” だってさ!
”あれ? オレに、ついてきて欲しい、って、言っていなかった?” ”そういう冗談、やめてくれる?”
向かいの、たっくんの席に、座りながら。 まったく、自分の冗談は、いつもOKで、かまってやろうとすると、拒否するなよ。
”龍兄。目の前に、人相の悪い人が、座っています” ”また・・。最後の最後まで、そんなことを・・(龍兄、呆)”
つよしは、絶対、自分の考えを、変えることは、ないだろう。 でも、わたしも、たっくんも、木村も、龍兄も。そして、他の社員の多くも。
きっと、きっと、待ってしまう。 2週間後に、不機嫌そうに、出社してくる、彼を、待ってしまう。
ありえない。まず、絶対、ありえない。 でも、それでも、待ってしまう。 そして、わたしは、ここまで、惜しまれて、辞める人を、他に知らない。
”もう、二度と、会わないと、思うけど”
っつーか、送別会、あるし。 でも、おそらく、それ以降は、ほんとうに、会うことは、ないでしょう。 けど、やっぱり、最後の最後まで、さよならは、言わないことに、致します。
じゃ、お疲れさまでした。
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