Juliet's Diary
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2003年03月18日(火) |
僕の生きる道(最終話) |
その顔は、なにかを、知ってしまったような、顔だった。
ひとりでは、支えきれなくなった、その体を、起こし、訴える。 最後まで、やり遂げたいと、残り少ない体力を、振り絞って。
”おかあさん。ありがとう”
震える母の手を、静かに、見つめながら。 窓から差し込む、影だけなのに。 去り行く息子と、残る老いた母の、会話。
ひとりでは、歩けなくなった体を、彼女が、支える。 残りの時間を、ひとりで歩くと、決めたのに、 それでは、いけないと、気がついた。
だから、最後の道も、彼女と一緒に、歩く。 たとえ、それが、男として、どうしようもなく、みっともない姿だと、しても。 愛しているから、たがいに、必要だと。 去り行く秀雄さんにも、残るみどりさんにも、今、必要だと。
ふらつく、足元。
健常なはずの、その体で。 どうして、そんなことを、表現できるのか? あなたの、肺から吐き出す、苦しい呼吸までが、感じられる。
つらくなんかない。それよりも、あの場へ、たどり着きたい。
まっすぐ、行く手を見つめる、その目から、聞こえてくる。 やせすぎた、その顔から、あなたの骨格すら、見えてしまう。
もう、生きている人の、顔ではない。 懸命に、生きようと、しているのに、もう、その顔は、生者では、ない。
前に、見たときは、背後に、死が、迫っていた。 けれども、今は、違う。 体の、ほとんどを、死に、犯されていた。
その違いは? つよしくん。 どうやって、それを、体現、したのですか?
”ボクのこと、忘れないで下さい” 去り行くものとして、残る人に、願うこと。
”それから、ボクに、しばられないで下さい” 去り行くものとして、残る人に、もうひとつ、願うこと。
”ボクが、死んだ後も、強く、生きてほしい”
通帳や生命保険、死亡通知の連絡先も、大事。 でも、それ以上に、絶対に、願うこと。
もう、自分は、どんなに、つらい時でも、そばに、いて、あげられない。 もう、手を握ることも、できなくなるのだから。
走馬灯のように、かけめぐる、生きた証。
”今までの、28年が、愛しく、思える”
少しずつ、霞み行く、視界。永遠の、世界へ、旅立つ。
”また、会えるのだから”
あの木の下で、また、会えるのだから。
永遠の眠りについた、彼の、体。
シャツを、切られ、心停止の時は、終わりを、感じなかった。 ”まだ、ダメだよ! 中村先生!” そんなふうにして、画面を凝視。がんばれっ!と、手を握ってしまう。
でも、うつむいた、彼の顔。 少しづつ、傾く、体。
”逝ってしまった・・・”
さようなら。さようなら。中村秀雄さん。
あなたの、28年が、どれほど、ダメだったのかは、わたしには、わかりませんが、 でも、最後の、1年は、とても、素晴らしいものでした。
でも、それは、あなたが、努力をして、素晴らしいものに、したのだと。 決して、なんとなく、手に入れたものでは、ないということを。 幸せになるには、自ら、手に入れようと、しなければ、いけないということを。 それを、去り行くあなたの姿から、学ばさせて、頂きました。
さようなら。中村秀雄さん。
”砂肝・・・”
最後の言葉が、ソレだとは。 でも、きっと、彼女には、最後に、自分を思ってくれたのだと、わかるでしょう。
さようなら。さようなら。中村秀雄さん。
いづれ、つよしくんは、ダイエットを、返上し、少し、太るでしょう。 もとの、体に戻った彼からは、最後のあなたの姿は、もう、見えまい。 でも、それは、つよしくんの、健康に、かかわることですから。
さようなら。さようなら。中村秀雄さん。
”でもね。ボクの中には、ずっと、いつづけるんだよ”
そうだね。役者さんには、きっと、ずっと、消すことは、出来ない。 彼の心は、あなたの中から、生まれたものだから。 あなたが、脚本の、文字の世界から、 我々にも見える、映像の世界の中に、生み出した、人だから。
そして、彼を、見てしまった人の、心の中からも、彼は、消えることはない。 それは、あまりにも、きらきらしく、輝いて。 あまりにも、多くのことを、教えてくれたので。
さようなら。さようなら。さようなら、中村秀雄さん。
もう、あなたのその輝きを、見ることが出来ないと思うと、 とても、さみしく、思います。
さようなら。中村秀雄さん。
”世界にひとつだけの花” は、 涙なくしては、聴けない曲に、なってしまいました。
ありがとうございました。さようなら。
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