[ 天河砂粒-Diary? ]

2005年03月19日(土) お題バトル作品

【空中回廊】

 さらさらと、細やかな石のかけらが階段の踊り場を跳ねるように滑り抜けてゆく。頬を撫でゆく風は、雨の記憶を呼び覚ますような、柔らかな湿り気を帯びている。
 時に晒され風化してゆく緩やかな螺旋階段は、一段一段踏みしめるたびに、さりさりと音を立てて、風にそのかけらを舞い上がらせる。両脇に長く連なる花壇に色とりどりの花が咲く様子は、螺旋階段を流れる春色の川を思わせる。そよ風にさざめくその水面は、ドレスで着飾った妖精の群れがダンスを踊っているかのようだ。
 空中庭園へと続く、広い広い螺旋階段。遠くに見下ろす景色は、淡い霧に包まれてぼやけている。その霧の向こうに、かすかに何かが見えた気がして、少女はわずかに足を止め、しかしまた、歩き出す。
 そよ風が、彼女の髪をかき混ぜ、下界へと降りてゆく。
 風の中に、かすかに花の香りが混じっている。
 ふと足を止めて、彼女は向かう先を見上げる。巻き貝そのものの様な、アイボリーの螺旋階段。その中央に、淡い淡い空色がぽっかりと落とし穴のように開いている。
 しばらくそのまま立ち止まり、言葉もなくその青を見上げて立ちつくす。
 風の中に花の香りが増した。
 彼女は再び、足を進める。さりさりと、その昔階段の一部であったろう石のかけらが足の裏をくすぐり音を立てるのを聞きながら、ゆっくりとのぼり行く。
 進むごとに、花の香りが存在を強くしてゆく。むせかえるような甘い香りと、心涼やかになるような、スペアミントの香り。その香りから、目指す先が近いことを知る。
 自然と、彼女の歩調が早くなった。落とし穴のようだった青は、今や天井を思わせるほどの大きさになっていた。
 半ば、駈け上がるようにして、階段の終わりを目指す。
 息を切らしながら登りきると、不意に視界が開けた。
 はらはらと、白い花びらが舞う。
 地面に広がる、薄緑のベール。
 見渡す限りの、空色のパノラマ。
 細い雲が、空に絵筆を軽く滑らせたような軌跡を残している。
 その奧に、淡い緑の蔦を絡ませた城が、たたずむように建っている。
 白い壁が、蔦の隙間からのぞいている。
 乱れた息を整えるように、大きく深呼吸をして、彼女は広い空中庭園の中を、城に向かって進んでいく。
 きらきらと、露をたたえた柔らかな草の上を踏みしめると、しっとりとした感触が足の裏に心地よい。
 髪の毛を揺らす風に、心までひらひらと踊る。
 穏やかな、世界。
 複雑に絡まった蔦に覆われた城の側までたどり着くと、彼女の前で、水晶を思わせる光反射する扉が音もなくゆっくりと開いた。
 胸の高鳴りを感じる。
 吸い込まれるように、彼女が城に足を踏み入れる。
 そして、

「よくぞいらっしゃいました。そして、いってらっしゃい」
 誰のとも知れない、優しい声に送られて、彼女は今、この世界に生まれた。

... ... ...END




制限時間:90分
テーマ:花
お題:舞 妖精 香り 旬 季節 そよ風 世界にひとつだけ 言葉
(使用お題:舞 妖精 香り そよ風 言葉)

ええと。うん。お題バトルって、難しいですよね。(涙)


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三紀藍生 [Mail] [Home]

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