箱の日記
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地中アパート
僕らは傾いたアパートに暮らした。 最初に傾いたとき、シロアリが出たといって騒ぎになり、 直ぐに業者が駆けつけた。シロアリなんて、どこにもいません、と。 でも念のために殺虫剤だけは撒いていきます そういって、長いノズルを軒下にくぐらせた。風のない暑い日に いやな臭いが立ちこめて、ひどい頭痛がした。 あの霧は虫に、じゃなくて僕に効いたんだ。
つまり地面よりも建物のほうが硬かったわけだ。毎日を暮らす 僕らの重みで、日々アパートは沈んでいく。丈夫な姿のまま。みしみしともぎしぎしとも いわないけれど、分散しきらない歪んだ重みが、絶えず建物を震わせていて いっときもその周波が耳を離れることはなかった。地盤沈下は日増しに明らかになり、 いよいよ立ち退くことになったんだ。僕らが別れることになったのも、ちょうどそのころだったね。 どっちが先の話だったか、どうしても思い出せないけれど。
いまでも地震が起こるたびに想像してしまうんだ。あのアパートが、地面に呑み込まれて そのまま生き埋めになっている姿を。ちょうど安定した比重の場所にいて 永久に浸食されないまま、残り続けるんじゃないかって。
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