箱の日記
DiaryINDEXpastwill


2004年08月01日(日) 地中アパート



地中アパート



僕らは傾いたアパートに暮らした。
最初に傾いたとき、シロアリが出たといって騒ぎになり、
直ぐに業者が駆けつけた。シロアリなんて、どこにもいません、と。
でも念のために殺虫剤だけは撒いていきます
そういって、長いノズルを軒下にくぐらせた。風のない暑い日に
いやな臭いが立ちこめて、ひどい頭痛がした。
あの霧は虫に、じゃなくて僕に効いたんだ。

つまり地面よりも建物のほうが硬かったわけだ。毎日を暮らす
僕らの重みで、日々アパートは沈んでいく。丈夫な姿のまま。みしみしともぎしぎしとも
いわないけれど、分散しきらない歪んだ重みが、絶えず建物を震わせていて
いっときもその周波が耳を離れることはなかった。地盤沈下は日増しに明らかになり、
いよいよ立ち退くことになったんだ。僕らが別れることになったのも、ちょうどそのころだったね。
どっちが先の話だったか、どうしても思い出せないけれど。

いまでも地震が起こるたびに想像してしまうんだ。あのアパートが、地面に呑み込まれて
そのまま生き埋めになっている姿を。ちょうど安定した比重の場所にいて
永久に浸食されないまま、残り続けるんじゃないかって。





 


箱 |MailPhotoMy追加