箱の日記
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2004年04月05日(月) むかし捨てた女たち

 
むかし別れた女たちが
捨てられたといって
つぎつぎ現れた
捨てた憶えはないし
人数も違っている気がしたが
そう言われると自信がなくなって
弁解を考えた
金がほしい
という女がきた
財布をみたら二万円残っていた
給料日はずっと先だが
仕方ない
これでぜんぶ
と言って財布の一万円札二枚を渡した
今度はよりを戻したい
という女がやってきた
名前は出てこないが
たしかにむかし同棲した女だ
別れた原因は憶えてないが
手作りのぬいぐるみをたくさんくれた
クマやライオンを車に乗せて
よくドライブに出掛けた
どこへ行ったか
それも思い出せないが
菓子ばかり食べていた
たまには美味いものを喰いたいね
といってディナーに出掛けたら
もうすっかり腹一杯でなにも食べられなかった
よりを戻すには遠すぎるんじゃないか
と言ったら
何回か頷いて女は帰っていった
子供を抱えている女もいた
一瞬冷や汗が出たが
わたしの子であるわけがない
きのう、生まれたの
そう言って
夫はひとまわり年上なのだと説明した
おめでとう
くらい言ってもよかったが
すこし嫉妬のような気持ちが起こった
女の母親がわたしを心配しているのだという
心配されるほど困ってもいないが
大丈夫と言っておいた
その母親はたしか
癌を患っていたはずで
むしろそのことが心配だったが
尋ねるきっかけもないまま
つぎの女の番になった
知らない女だった
顔が見えないぎりぎりの角度で
俯いていた
なんとか見えないものかと屈んだが
だめだった
女はなにも言わなかったが
電話の女だとわかった
無言電話だ
夜中の二時頃かかってくる
静まりかえった部屋に
電話のベルが鳴り響き
またか
と思う
起きているのを知っているのか
眠っているときには
掛かってこなかった
なにか恨みでもあるのか
とも訊けず黙っていると
女は泣き出した
鼻をすすりながら
わたしに受話器を渡した
その重みが
なんだか丁度良い気がした
女のことをすこし思い出した気がした

それ以上なにも出てこなかった
幾人かの女たち
そのなかにだれかをわたしは探していた
探しても探してもみつからないだれか
なまえを呼んでみた
返事はなかったが
明け方の布団の中でそれがだれであるのか
わかったような気持ちがして
目を閉じた




 


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