それにしても森繁、見事な重鎮ぶりだった。
昔ナンシー関が、森繁における「重鎮」と「ボケ老人」のシンクロシニティを検証していたが、今回も、そのシンクロシニティは見事なまでに発揮されていた。
人の話を全く聞いていないと思しきため、基本、会話のキャッチボールは成り立たない。「どうぞずっとお元気で」と言う松本某に対し、突然「感動したよ!見るたびにいつも感動する!」と声を荒げて泣きはじめる。
普通の爺さんならただの「ボケ老人」だが、だが森繁なので、やはりここでも「重鎮」として重宝されていた。
圧巻だったのは、19メートルかナンだかの花道を、手を引かれて歩いていた所だ。
周りの「本当に歩くんですか!?」と言わんばかりの雰囲気などものともしない。だって重鎮だから(←ナンシー風)。
息遣いさえ聞こえてきそうなほど静まり返った劇場内。杖をついた森繁が、ゆっくりゆっくり歩を進める。あれぞリアル牛歩。老人が歩くのをあんなに注視したのは初めてだ。歩いてた!おじいさん、歩いてたよ!私の中では、「クララが歩いた」以来の大事件。嘘だけど。
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