ぱらやんの撃痛リーマン日記...ぱらやん

 

 

【決意】 - 2007年08月29日(水)

弟の精神的タフネスが羨ましく思える。






再び「今日も体調不良で」といって会社を休む。

申し訳ないが、これしかない。



昨日の夕方から駆けつけてくれた弟の運転で病院へ向かう。

弟はホントに冷静というか。昨日の説明を聞いても「何とかなるかも

知れないという可能性があるだけでもいいじゃない」と言った。

自分の入院期間中、甲斐姫の面倒を見続けた弟は決して無責任ではない。

甲斐姫を信じているから言えるのだと思う。



病院へ到着。

昨日の朝の段階と見比べてみると、血を抜いた分楽そうに見える。

しかし、数値はそうは言っていない。

明らかに貧血は進行し、もうギリギリの状態らしい。正直CTにすら

耐えられるか、といったレベルらしい。

そして更に追い打ちをかける事実が判明。

昨日の血抜きの最後、偶然にも病片らしきモノが針の中に吸い込まれて

いたらしい。その細胞片を調べてみた結果、判明したのが



「肺腺癌」



の細胞である疑いが強いとのこと。

腺癌であれば転移している可能性が非常に高い。CTに多数の腫瘍痕が

見られるのであれば、そこで諦めるしかない。

仮にCTに映らない場合でも細かく転移している可能性も否定できない。

胸を開いてみて諦めることもある、と。



次から次へと乗り越えねばならない壁が現れる。

はっきり言って疲れた。正直、弱音を言いたい。

一緒に説明を聞いていた母親もさすがに「もう家に帰して楽してあげたら」

と言い出した。母方の祖母はリンパ癌で亡くなっていて、最期はしきりに

「家に帰りたい」と言っていたの思い出した、とか。



でも甲斐姫が望んでいるのは「家に帰る」じゃなくて「病気を治して家に

帰る」のはず。ならばやってあげる事があるなら、厳しくてもやってあげ

ないとしょうがないじゃないか。自分だってこれ以上、甲斐姫に苦しみを

与えたくはない。でもだからといって可能性を閉ざす幕引きは出来ない。

院長先生も「出来うる限りの努力はするのでCTを行って胸を開けさせて

ほしい。」と言ってくれた。



最悪のケースはもう見えている。

ならば一歩前に進んでみるしかない。

麻酔に耐えてCTを行い、その結果、手術が可能であると判断がされ、

実際に胸を開けて腫瘍を確認して切除が可能であれば除去。

その間、血量・血圧・酸素濃度・体力、どれか1つが欠けることも

許されない。それでも可能性はゼロじゃない。






院長先生に頭を深々と下げ「お願いします」と絞り出すように声を出す。






院内はすぐさまCTと手術の準備に追われる。

まず甲斐姫の胸に溜まった血を再度抜き取る。出来うる限り。

再び注射器にドクドクと血が流れ込み、トレーに吐き出されていく。

こんなに血が流れてしまっていたのか、と改めて思う。

昨日と合わせて既に2リットル以上流れているように見える。



CTの準備に合わせて甲斐姫に麻酔を打つ。まずは注射で打ち、その後に

吸引型に切り替える。検査室に運ばれる間際、しつこいくらいに甲斐姫の

額にキスをする。これくらいしか出来ない不甲斐なさ。



CTの検査室には人工呼吸機が無い。その為手動で人工心肺を動かしつつ

検査をしなければならない。窓の付いた見学スペースがあります、と薦め

られたが、検査が始まるまでの修羅場の雰囲気に耐えられず、検査室の

ドアの前で甲斐姫の首輪とお守りを握りしめながら必死に祈った。



何に祈ったのかなんて分からない。ただひたすら「ガンバレ」と呟き

涙を流し続けた。程なくして見学スペースにいた弟が呼びに来る。

検査結果が出たようだ。



機械のモニターを見ながら院長先生が説明をする。

右側の肺の前部、所謂「前葉」の部分が真っ白くなっている。ここが非常に

怪しい、と。幸いなことに他の肺や臓器に腫瘍らしき影は見えない。

しかし、相変わらず血が抜けきっていないらしく、不鮮明な部分が多い。



院長先生は「不確かなファクターは多いが、白い影だけが腫瘍ならこれを

上手く取り除くことが出来れば道が見えてきます。任せていただけないで

しょうか?」と言ってくれた。

確かに、甲斐姫の体力的に非常に危険が伴うということも付け加えている。

仮に開けてみて状況が手の施しようがない場合もある。相変わらず危険で

不透明な状況の方が多勢を占めている。



でもここまできて「やめましょう」なんて言えない。言えるわけがない。

甲斐姫は既に戦いを始めている。必死に命をつなぎ止めている。






「お願いします。甲斐姫を頼みます。」






なんとか、この言葉だけ絞り出した。

すぐさま甲斐姫は手術室へ運ばれ、人工呼吸や心電図や様々な機器に

囲まれモニターを開始された。手術室にも見学用の窓があると言われたが

とても無理なので控え室を用意してもらい、母と二人でそこに移り、弟は

「見届けないと甲斐姫が可哀相だ」と言って手術室前に残ってくれた。



控え室にはいるとイスに倒れ込むように腰掛ける。

一息「フーッ」と息を吐いて、先ほどと同じように首輪とお守りを握りしめ

必死に、何かにすがるように「ガンバレ、ガンバレ」と呟き続ける。






どれくらいたっただろうか。

弟が控え室に現れ「何か切り取るような作業を始めている。諦めでは無い

みたいだ。」と言いに来てくれた。

思い切って手術室の前に行ってみる。寝台に横たわった甲斐姫の胸に

ポッカリと空いた穴に院長先生が手を入れて懸命に手術を行っている。

時折、大きな赤黒い塊が見え隠れする。あれが腫瘍なのだろうか。



なかなか気力が付いてこず、時折控え室に戻りながらも手術の様子を

何とか見届ける。やがて先ほどの赤黒い塊がその姿を表し、トレーの

上に取り除かれる。大人の両手に乗るほどの塊。こんな巨大なモノが

甲斐姫を苦しめていたのか。そう思うと涙が止まらない。



まだまだ油断は出来ない。いつプッツリと糸が途切れてしまうか全く

保証がない。院長先生もスタッフも懸命に作業をこなしていく。






やがて手術は縫合へと向かう。

院長先生が手術室から出てくる。こちらに向かって一礼し、

「任せていただいて、ありがとうございました。甲斐姫ちゃんの体力と気力

 で何とか一つの山を越えることが出来ました。」と言ってくれた。



自分はただひたすら頭を下げて顔をグシャグシャにしながら御礼を言った。

まだ、乗り越えるべき山は幾つもある。それでも甲斐姫は巨大な山を自らの

力で乗り切った。何ていっていいのか言葉が見つからない。



説明では切除したのは右前の前葉。これが硬質化しながら変異しており、

横に真一文字に亀裂が走り、そこから出血していたとのこと。

それとこの手術は幾つもの幸運を積み重ねて、成功したものだと言った。



まず開胸をして、そこにドンピシャで腫瘍があったこと、開胸を補助する

器具が甲斐姫の体格にピッタリ適合していたこと、腫瘍の切除が前葉の

根本二箇所を切るだけで済んだこと、それにより止血箇所も少なくて済んだ

こと、切除後、周囲に転移の痕があるか確認したが見られなかったこと。



様々な幸運が積み重なり、通常であれば3〜4時間は要する腫瘍の切除を

1時間ほどで終了することが出来た。甲斐姫の体力でも凌げたのはこれらの

積み重ねによるものだ。正に塁上を埋めての逆転ホームラン。






確かに、まだまだ油断は出来ない。

むしろ手術によるストレスは甲斐姫に負担となって重くのしかかる。

術後の体力でそれが凌げるのかどうか、これも未知数。

術後は身体バランスが乱れる可能性が非常に高い。各種臓器の機能不全や

呼吸障害、血栓による塞栓症も気をつけねばならない。



現に、今現在の甲斐姫は術後の軽いパニック症状で高熱にうなされている。

一時、突然目覚めて呼吸器のマスクを剥ぎ取ったり、そうかと思ったら

またフラフラと眠りに落ちたり、まだまだ安定とはほど遠い。



病院も諸事情により24時間看護が出来ない環境下。

(労働基準法はこういう場合は免除して欲しい・・・)

いつ何時、緊急事態があるか分からない。病状が安定するまでまた戦い。

でも肝心な時に自分は側にいてあげられない。さすがにこれ以上、会社を

だまくらかして休むわけにもいかない。夜はなんとか終業後に行けるが

日中はどうにもならない。なんとか母に協力を仰いでもらうが、日中

ずっとというわけにもいかない。



もう一踏ん張り、ほんとにもう一踏ん張り。

甲斐姫、頑張っているのは重々承知しているけど、これしか言えない。

ガンバレ。負けないで欲しい。元気になって家に帰ろう。


...




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