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2016年12月23日(金)
第一回文アル読書会

お題:徳田秋声「新所帯」

 まず、文体に関して―――「読める」―――私にとっては比較的読みやすい部類の文体ではあったけれども「読ませる」―――ぐいぐい引き込むタイプではありませんでした。地味……、そう、地味というか華が無いというか……。徳田秋声との出会いが文アルなので、頭の中であのキャラがちらついてしょうがなかったですね、本来の徳田秋声像とはだいぶと違うんでしょうが。
 本文中、「美しい」「美しく」という形容が何度も現れるけれども、それが実際に美しく印象づけられたかというとさにあらず。主人公である新吉も美形設定されているはずなのに、ともすれば「美しい」はずの容姿を忘れ去ってしまう。美が表現できていない。美の表現は苦手?なのに「美しい」という形容を少なからず用いるところに足掻きのようなものを感じてしまいました。

 内容については、「結婚て就職と似てるよねぇ」という感慨が最初に。アタリの雇用主を引けば幸せだけどハズレを引くと後々までしんどい思いをする。作にとって新吉は「大ハズレ」とまではいかないにせよ「アタリ」ではなかった。以前奉公に上がっていた先では随分可愛がられていた、という断片的描写からして、作は褒められてこそよく働く、働けるタイプだったのではないかな?けれど、新吉は「褒めて使う」のは、おそらく下手だよね?叱りつけてしまう。よくない組み合わせですよ。

 まあ、これは横道だけど、私自身の仕事遍歴でも何かと褒めてくれるところではミスも少なくシャキシャキ要領よく片付けられた気がするし、欠点をあげつらわれる所ではどうにもミスが増えて自分のことがひどいダメ人間に思えた。そんな記憶とも重なって、この辺の作の心情はいたましく思えました。

 一方で新吉の苛立ちもわからないでもなく、共に何かの事業を行う(結婚て突き詰めれば「家庭」経営だし)というのは難しいことだね、と、しみじみ。伴侶はいわば共同経営者だから、期待するところも失望するところも大きいのだろうね。ただ、新吉は、外見のわりには内面は器の小さな俗物だな、と、愛せない印象でした。

 作が「実家に帰らせていただきます(離縁する意味で)」できなかったのは、作の気が小さかったから?当時の「夫婦」というものが概ね、こういうもので、夫の暴力(精神的にも物理的にも)も「普通」だったから?新吉が金銭的には甲斐性のある方だったから?多少なりとも新吉の外見に惹かれていたから?などなど、現代に生きる多少気の短い方な私は色々勘繰ってしまいます。
 新吉が作を捨てなかったのは、先に書いたとおり、器の小さな俗物で、世間体を気にするところもあったからかな、と。思い切りはあまり良い方には見えません。作のこともだけれども、国のことも、結局相手が動かなければ自分からは動かない。気の小さいやつだな、と思います。
 新吉の「容姿が美しい」と何度も言及されながら、読んでいて美形が想像できないのは、こういう要素によるのかも。チグハグなんですよね。かといって「ギャップ」を描写したいわけでもなさそう。だから「美しい」形容が、秋声の何かの足掻きのように感じられてしまうんです。

 国は、新吉の家庭に蒔かれた「波乱の種」で、これが芽を出し順調に(?)育てば生臭い話になるけど大いに盛り上がったのではないかと。なのに、芽が出かかったところで刈り取っちゃうんですね。摘み取るというよりザクッと刈り取られた感じ。
 女房の留守に色っぽい女に上がりこまれて、泊まり込んでもいたようだし、普通ならすることしてるとこじゃないのか?みたいなもんなんですけど、「いや、新吉には無理なんじゃないかな」という気もします。それができる男だったら、とうの昔に自分とは性が合うとはいえない作にも離縁を申し渡していただろうし。作をキープし続けるのも「情がある」というより、「別れるほどの能動性を持っていない」からというふうに見えます。
 国が男に馬乗りになるほど能動的な女だったなら、そこでおそらくそういう関係になってしまって切れるに切れなくなっただろうけれども、そんなふうでもないところを見ると、国も案外受け身で「さりげに誘ってはみたけど乗ってこないから、やってらんなくて愛想をつかした」のかな、とも。

 逆に国と小野の馴れ初めから別れを書いた方が話としては面白かったのではないかと思うのですが、そうではなく、あくまで小さく波風をたてられない新吉を中心に据えたあたり、主要登場人物が皆どこか受け身な姿勢なあたり、秋声の限界なのか趣味なのか。

 総合して言えば、美しくもなく醜くもなく、綺麗でもなく汚くもない話でしたね。

 あ、オチには、「なんだ、こいつら、やるこたぁ、やってたのか」と思いましたw