んで。 明け方には起きて。 まだ犬の子は生きていた。 ひぃひぃと鳴らすだけの鼻が。 くぅ。 くぅ。 と,音になっていた。
ああ,この子は生きる。 そう思ったんだ。
妹は憔悴しきっていたけれども。 それでもこの子のことを片時も離さずに。 一緒に浅く眠っていた。
僕は運転免許をとるために,仕事を休んで免許センターに向かった。 なにしろ面倒なことに,試験は平日にしかやってくれないのである。 運のいいことに,この日,T君は通院のために欠席だった。
日が良かったのだろうか,あまり混んではいなかった。 昨日,電車の中や布団の中で適当にテキストを読んだだけだから。 しかもかなり寝不足,集中できてない。 やばいやばいやばい。 でもまあ,仕事をせっかく休んだんだし。 頑張りますですよ。
いやあ…わかんねえのわかんねえの。 もう,かなりの割合で勘にまかせて書いてました。 これで合格したらサイババの奇跡だよ,ということで。 かなり絶望的な気分で,電光掲示板を見てました。
ヤター。 合格ー。 うっそだろおおおおおおおおおおおおお。 (自分に信用のない自分)
何かと書類の処理に時間がかかるようで。 午後までかかって。 写真もちゃかっと撮って。 (よく,明るい顔色に写すために「白い服を着ていけ」と言うけれども) (僕は顔色が悪かったせいか) (明るいを通り越して,真っ白な顔に映った…)
免許取得ー。 どんどんぱふぱふー。 これで,身分証明書として健康保険証を出さずに済みます。 車に乗れるより,そっちのほうがうれしかったり。 だってまだ車ないもの。
ママンがお迎えにきてくれて。 るんるん気分(謎)で帰る。 その途中。
弟から電話がありました。
「犬の子の呼吸がとまった」
「今,人工呼吸している」
五分後,また電話がありました。
「死んだよ」
僕が帰宅したとき。 上の妹(面倒をみてくれた方)は,ぼだぼだと泣いていた。 弟はうつむいて,眉を寄せていた。 下の妹は母にすがって泣き始めた。 犬の子を抱かせてもらった。 まだ温かかった。 まだ柔らかかった。 ただ。 もう動かなかった。 僕は泣いていたらしい。 ぼだぼだとしずくがたれてようやく気づいて。 だんだんと手の中で硬くなっていく小さな子。 だんだんと。 僕は泣いた。
普通にしていたのに。 不意に,火がついたように泣き出したとのこと。 そのまま段々にぐったりとなっていって。 多分,心臓麻痺を起こしたのではないかと,僕は思う。
みんなが泣いた。 みんなが泣いた。 泣いた。
結局,名前もつけなかった。
僕は適当に「れんげ」「げんげ」と呼んでいた。 彼の捨てられていたのは,クローバの草むらであるから。 (厳密に言うと「れんげ」=「クローバ」ではないのだが) 相方が提案してくれたのだった。 「僕,悪い名前をつけてしまったろうか」 と言っていた。 「でも。浄土に咲く花だから。きっと安らかに眠れる」 と。
みんなでお墓を掘った。 スコップで掘った。 シャベルで掘った。 手で掘った。
横たえた。
花で埋めた。 花で埋めた。 花で埋めた。 そこらへんの花みんなむしって埋めた。 さびしくないように。 きっと花のにおいがする。 きっと花は明るい。 きっと花はにぎやかだ。 きっと花はやさしい。 きっと。 さびしくない。
主よ御許に近づかん登る道は十字架にありともなど悲しむべき主よ御許に近づかん
歌わせておくれね。
僕は泣き腫らした目で。 それでも,店の人と約束していたから。 車を買いに行った。 新マーチのオリーブグリーンを買う。 蛙のような可愛い車だ。
以上,日記終了。
さて。 どう思われようとかまわないのだ。 僕は,あの子を拾いあげたことを後悔してはいない。
助かるか助からないかなんてただの結果だ。 結果なんてどうでもいい。 僕は何も考えなかった。 ただ,その瞬間瞬間にこの子に幸せでいてほしいと思っていただけだ。 寒いよりは温かい方がいい。 つつかれて痛いよりは,なでられて安心している方が好きだ。 ただそれだけのこと。 僕なら。 生きながら鳥に食べられるのは嫌だ。 そんな怖いのは嫌だ。 そんな痛いのは嫌だ。 それを潔しとする精神は理解できない。 保健所に連れて行くほうがよかったか。 一度も安心しないまま,薬で殺せばよかったか。 僕なら。 抱かれて眠りたい。 安心して眠りたいじゃないか。 偽善? いいことしたいとか考えている余裕ありませんが。 というか周囲にあきれられまくってましたが。 だってなあ。 死ななくてもよかったはずなんだ。 母犬の元にあれば,それだけで。 かなりの確立で生きていられたはずなんだ。 それを引き離して。 あんな,人の通らないところに捨てて。 何が良くなかったのだろうね。 捨てた人にどんな事情があったのかは知らないが。 そんな死に方をしなけりゃいけない命って,なんだ。 僕なら温かで眠りたい。 それだけなんだ。 不幸な子をこれ以上増やさないように,とは言わない。 この子のような子をもう増やさないように,とは言わない。 今までたくさんの犬猫を拾って。 それがいなくならないことを知っている。 友人の家では猫が生まれるたびに裏の川に投げて。 そのたびに,友人がぼろぼろ泣いているのを知っている。 僕にできることなど,本当に1ミリだ。 目の前にいたら抱き上げる。 それくらいしかできないから,した。 ただ安心してもらいたかった。 ただ泣き止んでほしかったんだ。 こんな気持ちで眠るのは嫌だ。 痛いまんま怖いまんまで死んでいくのは。 きっと嫌だ。 だから抱き上げた。 それだけのこと。 自己満足と言われれば。 まあ,うん,そうだね。 でもなあ。 とりあえず泣いてる子がいたら抱き上げないか? それだけのことを,なんでそんなに難しく考えるんだ。 あの子,寒くなかったろうか。 あの子,寒くなかったろうか。 それだけ考えている。 何のための生とかそういうこと考えない。 ただ生きたよ。 僕たちはいろいろ一生懸命やったよ。 そんだけ。
ああ。 寒くなかったろうか。
妹へ私信。 ありがとうね。 ありがとうね。 ありがとうね。
今日のタイトルは,マタイ5.3より。 癒されるからです。 いつか,癒されるからです。
今回のぽちっとな。 前回同様,ちょっとだけ祈ろう。 さあ,眠ろう。 今日もあたたかくして。
マイエンピツに追加するって手もある。←追加ボタンだぜ。
|