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2002年07月12日(金)

ごめんね、クマさん。

会社の人が、車でクマさんをはねてしまったらしい。
群馬のいなかの出来事だった。

その話をきいたとき、運転していた当人はまだ帰っておらず、電話を受けた人が社内に広めたらしかった。
車は前方がボコッとへこみ、前輪もパンクしてしまったと言う。
「あらー、大変ねえ」
一緒に聞いていた人が、ちょっと他人事、でも興味津々な面持ちで相槌を打つ。
そして次に出てきた言葉が、
「それで、クマは大丈夫だったの?」。
思わず笑ってしまったが、実はワタシも同じ事を考えていた。
車なんかどうでもいいのだ。どうせ会社の持ち物だし、修理に出せば治るに決まっている。
でもクマさんは…。
「あ、クマですか? それはちょっと聞いてなかったな」
訊かれた人は首を傾げるのみだった。

それから数時間ののち、当の運転手氏、Yさんが戻って来た。
「お帰りなさい」
ワタシはさっそく挨拶し、
「クマさん、どうしたの?」
と訊いてみた。彼が戻るまでの間、ずっと気になっていた。
「クマ?」
「うん。はねちゃったクマさん」
Yさんは、大声を張り上げる。
「クマなんか、どうだっていいんだよー!!!」
…そんなに怒らなくてもいいと思うが。
たしかに、この炎天下の田舎道で、誰の手も借りず、いや借りられず、パンクを直して帰ってきたのだろうから、まずはその労をねぎらうのが筋だったかもしれない。
反省しきりのワタシの後ろで、
「お、クマ殺し」
声が掛かる。
すごい目付きで振りかえるYさんに、また別の人が、「ねえ、クマは大丈夫だったのお?」と畳みかける。
「クマなんかな、逃げちゃったよ!!」
クマはさっさと逃げちゃって、車が動かなくなった俺は、田舎に一人きり残されて。
うーん、でも逃げずにそこにいたら、それこそYさんは帰って来られなかったと思うのだが。それともとッ捕まえて、修理代でももらうつもりだったのだろうか。
このYさん、いつもは「クマ、クマ」と呼ばれている、ちょっと見、野性的な、なんというか素朴なお人で。
憤まんやる方ないYさんに、再び、
「よ、クマ殺し」
と声が上がる。
しばらく、その呼び名からは離れられないに違いない。

それにしても、災難だったクマさん。
本当にごめんなさい。


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