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2002年03月12日(火)

この服、誰の?

昨日から、職場ではワタシ、折りたたまれた一着のコートの横で仕事しております。
まさか、今日もあるとは思わなかった。

昨日、ワタシより早く出社したお隣さんが、机の上に置かれたコートに気付いたそうで。訊くと、その場にいた誰のものでもない。困った揚句、その服はとり合えず、ワタシの机のパソコンの上に畳まれた。
続いてワタシが出社。当然、「これ誰の?」とコートを広げる。
色はモスグリーン。ナイロンのシャカシャカした生地で、丈はお尻まである。ショートコートという感じ。大きさとでデザインからして、まさしく男物だった。
周りの人達からそれまでのいきさつをきかされ、さらにワタシは他の人達にも「この服、知ってる?」、リサーチを開始した。
が。
どうしたことか、誰も知らない。
これはちょっとありえないことなのだが。
確かに、そこは事務所で、その場に籍を置かない人もたくさん出入りしている。しかし、どう考えてもコートは脱がない。ましてや置いていったりしないだろ。事務所から出れば寒いんだから、一番、忘れがたい品物のはずだ。
持ち主が見つからないまま、しかたない、そのコートは畳まれ、ワタシの横に積み上げられたダンボール箱の、一番上に陳列された。目立つ。ここなら、忘れた人の目にも付くだろうという事で。

今日も、コートはそのままあった。
気にはなったが、そのまま仕事をして、でもやっぱり気になるじゃないか。
帰りしな、ワタシはもう一度、コートを広げてみた。
「ポケットに何か手掛かりになるようなモノは入ってないの?」
誰かが刑事さんみたいなことを言い出した。
他人さまの洋服を探るのは気が進まない。
「鍵とか入ってたら、大変だよ」
そうだよね。そうだ、そうだ。
ワタシは、ポケットの一つ一つに、手を入れてみた。
「何もないですよ」
「名前は書いてない?」
そんな、アナタ。小学生のパンツや体育着じゃないんだから。
「どこかで拾って、誰かが事務所に預けたのかしら」
「でも誰が?」
「誰? え? うーん、ねえこれ、アナタのじゃないの?」
あ、あなた? どうしてそう言いながら、ワタシを見る?
「よくこんな風なコート着てるじゃない。これも似合いそうよ」
「そうそう、こんなの持ってるよね」
ああ、持ってるさ。
みんなが大笑いする。フフフ。ワタシも笑ってしまった。
たしかにね、ワタシは男物をよく着ます。ジーンズなんか腰履きだし、青年社員に「カッコイイ男の子がいる思ったら、君だった」なんて言われたりしたさ。カッコイイ? そうか。思わず喜んじゃったが、それは誉め言葉じゃないか…。
とにかく、ワタシのじゃないっっ!!!
「じゃ、課長のかもよ。ワタシ達が騒いでるから、言い出せなくなったのかも」
若向きのコートとは、縁もゆかりも感じられない課長の名前があがり、ついに次長、所長、部長と、お祭りは続いた。
こうなったら、全員が容疑者だよ。もう。

お祭りのあと、コートは再び畳まれ、もとどおりにダンボールの上に置かれた。
たぶん、そう遠くないうちに持ち主は判明すると思われる。が、そのときのワタシ達の反応はどんなものだろうか。
考えると、ちょっと笑える。


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