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「 死に何千敗 −初夏のさざ波が消えるとき− 」
2016年07月02日(土)



 眼、閉じれば、初夏のさざ波の音だけ
 
 眼、開けば、深山と砂浜の間にこびり付くような民宿

 なんと、人の世界は狭いのだろうか


 その人の世界で生きようとしてきた

 人は人の世界でしか群生して生きてはいけぬから

 他人と争いあいながら、生殖をしてきた

 離れてはくっ付き、そうしないと生きてはいけぬのが人だから


 人の世界で生きようとし、そして何とか人の世界で死のうとしてきた

 名を残こそうとし、ついには名を残さぬとも良いとさえ、してきた

 そうやって死に挑み、もう、数千敗

 絶望し、喘ぎ、苦しみ、打倒され、身が砕けて、心など何千回もバラバラになってきた


 それでも立ち上がる

 何とか、たちあがった

 次はどうなるか判らない

 次は、ないと感じてきた

 今


 ひりひりと胸がしめつけられる

 初夏のさざ波が胸に吸い込まれていく


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