眼、閉じれば、初夏のさざ波の音だけ
眼、開けば、深山と砂浜の間にこびり付くような民宿
なんと、人の世界は狭いのだろうか
その人の世界で生きようとしてきた
人は人の世界でしか群生して生きてはいけぬから
他人と争いあいながら、生殖をしてきた
離れてはくっ付き、そうしないと生きてはいけぬのが人だから
人の世界で生きようとし、そして何とか人の世界で死のうとしてきた
名を残こそうとし、ついには名を残さぬとも良いとさえ、してきた
そうやって死に挑み、もう、数千敗
絶望し、喘ぎ、苦しみ、打倒され、身が砕けて、心など何千回もバラバラになってきた
それでも立ち上がる
何とか、たちあがった
次はどうなるか判らない
次は、ないと感じてきた
今
ひりひりと胸がしめつけられる
初夏のさざ波が胸に吸い込まれていく