合羽を脱ぐように、私の肉の皮を剥いだ。
チクチクと刺す空気。
そよ風は棘の鞭となって打ち付け、血管が裂け、肩から胸から腿から血が噴出す。
塩分の高い海辺の強風なら、傷に塩を塗りこむように海水につかるなら、
全身が激痛でガタガタと震え出し、やっと、やっと気絶するのだろうか。
月が観える。
漆黒の闇に、ただ唯1つの満天の月だ。
はらはらと涙は流れ、顎までの一糸の激痛が目を細めさせる。
あまたに広がる心なのか、激痛ゆえなのか、涙は止まらず足元の砂が甲にポタポタと。
社会生活を安定させるための理性も悟性も感情も欲望も涙滴に換えられてしまう。
名誉の快感も金の悦楽も異性の激情も家族の温もりも、噴出す生命の液体を止められはしない。
生暖かい血だけが激痛から守り、そして奪っていくだろう。
満天に飛び立てない私は、満月に少しでも寄り添おうと海へと。
意識の飛び絶つ海へと還るのか。
注記:「合羽(かっぱ)」、「剥(は)ぐ」、「棘(いばら)の鞭(むち)」、「裂(さ)ける」、「腿(もも)」、「噴出(ふきだ)す」、「震(ふる)える」、「漆黒(しっこく)」、「闇(やみ)」、「顎(あご)」、「甲(こう)」、「悟性(ごせい)」、「涙滴(るいてき)」、「生暖(なまあたた)かい」、「添(そ)う」、「還(かえ)る」
執筆者:藤崎 道雪(H15,7,10校正)