ものかき部

MAILBBS

「 黒いヘアピン 」
2003年05月18日(日)



  残していった紺色のヘアピンを、黒いスーツのポッケにこっそり刺した。
  便座に座り、洗面台の下で見つけたそのピンは、君の残り香を漂(ただよ)わせていた。
  走馬灯(そうまとう)のように3日間が流れていって、安く大切な紺色を握(にぎ)り締(し)めた。
 
  もう、二度と逢坂の関は越えられないのだろうか。
  御呪(おまじな)いようのに、残していった紺色のヘアピンを、黒いスーツのポッケにこっそり刺した。
 
 
                   
注記
 ;「逢坂の関を越える」;京都の東にある関(関が原付近)が「逢坂の関」で、男女の一線を越えるという隠語。主に不貞(ふてい)や不倫関係などに用いられる。この場合は、どちらでしょう? 男の部屋に行く逢瀬(おうせ)というのに「安い」ヘアピンなので、生活にゆとりのない主婦か、質素な人か、若い人か、の可能性を示唆。
 ;題名は「紺色のヘアピン」ではなく「黒いヘアピン」。主人公の願いを反映して。

執筆者:藤崎 道雪


BACK INDEX NEXT

複製、無断転載、二次配布等を禁じます。
All Rights Reserved©ものかき部

My追加