残していった紺色のヘアピンを、黒いスーツのポッケにこっそり刺した。
便座に座り、洗面台の下で見つけたそのピンは、君の残り香を漂(ただよ)わせていた。
走馬灯(そうまとう)のように3日間が流れていって、安く大切な紺色を握(にぎ)り締(し)めた。
もう、二度と逢坂の関は越えられないのだろうか。
御呪(おまじな)いようのに、残していった紺色のヘアピンを、黒いスーツのポッケにこっそり刺した。
注記
;「逢坂の関を越える」;京都の東にある関(関が原付近)が「逢坂の関」で、男女の一線を越えるという隠語。主に不貞(ふてい)や不倫関係などに用いられる。この場合は、どちらでしょう? 男の部屋に行く逢瀬(おうせ)というのに「安い」ヘアピンなので、生活にゆとりのない主婦か、質素な人か、若い人か、の可能性を示唆。
;題名は「紺色のヘアピン」ではなく「黒いヘアピン」。主人公の願いを反映して。
執筆者:藤崎 道雪