ものかき部

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夜桜
2002年04月04日(木)

「はい、山本です。」

気を抜いていた時にかかってきた電話だったから、

間抜けな対応になってしまったかもしれない、

どうして携帯電話なのに名を名乗る必要があるのだ。

そんな事を考えながら、カーテンを開けて窓越しに外を見た。



「桜…。」

手に入れたばかりのカメラを握り締めて、独り思う。

満開の桜は俺の心に随分な刺激を与えてくれる。

既に桜は半分ほど散っているのに、満開に感じられた。



昼間は子ども達しかいない公園に花見を楽しむ大人の影が

見える。桜の花びらが落ちる先には馬鹿みたいにはしゃぐ

大人の影が見える。

もしかしたら、彼らのせいで桜は満開に感じられたのかも

しれない。どうやら、同じ会社の連中で花見を楽しんでいる

ようだが、そんな事は俺には関係ない。



特に桜が好きなわけではないが、今年はどうしても

見入ってしまう。奇麗事ばかりの世の中に少々嫌気が

さして、ふと、外を見たとき、そこには桜があった。

桜はリアルだ。どんなに綺麗に咲いて騒がれようとも

散ってしまえば、ただの、ゴミだ。そんな風に思う。

俺はどっちかといえば、散ったあとの桜が好きだ。

そして、日中の桜よりも、夜の桜の方が好きだ。



日光に照らされている桃色よりも、暗闇の中の桃色の方が

リアルじゃないか。家々の窓から漏れる電気、車道を走る

車が正面を照らすライトでライトアップされた桜は何よりも

美しいじゃないか。

そんな事を考えているから、勿論、相手の声など耳に入って

こない。そもそも、俺は電話が苦手なんだ。



窓に映る自分を通り越して、桜に見入る。

窓に映る自分を通り越して、シャッターを切る。

反射した光がまぶしくて、目が覚めたような気がした。



「ちゃんと聞いてる?」

「マジですか。」

相手の質問と自分の答えが噛みあっていないのはすぐに

理解できた。理解と同時に、カーテンを閉めた。



「え?まあ、いいや、あんた彼女とかはどうなのよ。」


「僕、女の子にはまだ興味ないんで。」






次回更新は4月14日前後くらいです.


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