「はい、山本です。」
気を抜いていた時にかかってきた電話だったから、
間抜けな対応になってしまったかもしれない、
どうして携帯電話なのに名を名乗る必要があるのだ。
そんな事を考えながら、カーテンを開けて窓越しに外を見た。
「桜…。」
手に入れたばかりのカメラを握り締めて、独り思う。
満開の桜は俺の心に随分な刺激を与えてくれる。
既に桜は半分ほど散っているのに、満開に感じられた。
昼間は子ども達しかいない公園に花見を楽しむ大人の影が
見える。桜の花びらが落ちる先には馬鹿みたいにはしゃぐ
大人の影が見える。
もしかしたら、彼らのせいで桜は満開に感じられたのかも
しれない。どうやら、同じ会社の連中で花見を楽しんでいる
ようだが、そんな事は俺には関係ない。
特に桜が好きなわけではないが、今年はどうしても
見入ってしまう。奇麗事ばかりの世の中に少々嫌気が
さして、ふと、外を見たとき、そこには桜があった。
桜はリアルだ。どんなに綺麗に咲いて騒がれようとも
散ってしまえば、ただの、ゴミだ。そんな風に思う。
俺はどっちかといえば、散ったあとの桜が好きだ。
そして、日中の桜よりも、夜の桜の方が好きだ。
日光に照らされている桃色よりも、暗闇の中の桃色の方が
リアルじゃないか。家々の窓から漏れる電気、車道を走る
車が正面を照らすライトでライトアップされた桜は何よりも
美しいじゃないか。
そんな事を考えているから、勿論、相手の声など耳に入って
こない。そもそも、俺は電話が苦手なんだ。
窓に映る自分を通り越して、桜に見入る。
窓に映る自分を通り越して、シャッターを切る。
反射した光がまぶしくて、目が覚めたような気がした。
「ちゃんと聞いてる?」
「マジですか。」
相手の質問と自分の答えが噛みあっていないのはすぐに
理解できた。理解と同時に、カーテンを閉めた。
「え?まあ、いいや、あんた彼女とかはどうなのよ。」
「僕、女の子にはまだ興味ないんで。」
次回更新は4月14日前後くらいです.