2006年05月13日(土) |
藤本ひとみ『逆光のメディチ』 |
このタイトルがいかしていると思いません? イタリアルネサンスの中心地フィレンツェの名家メディチ家に興味津々。 ずっと前からタイトルにひかれて読みたいと思い続けていた本です。
作者は少女向けの小説家だと思っていたので、こういうモチーフで作品を著すということにも興味津々。 「ほんとに書けるの?」なんて意地悪な思いもあったのですが、史実に基づきながら物語としても一気に読ませる一冊でした。
主人公はレオナルド・ダ・ヴィンチ。 死の床にある彼が少女に仮託して、それまでかたくなに口を閉ざしてきたフィレンツェでの16年間について語ります。 メディチ家当主をとりまく策略と陰謀、そして、芸術と恋。 話は教会の堕落やイタリア統一の流れまでも描き出します。 よく下調べしてあるなあ。 それでいて独創的だなあ。 想像をはるかに超えて骨太な物語でした。
そして、美しい主人公達の劇的な恋愛絵巻は、読み終えてじわじわとその魅力が浸透してくる気がします。 なんかね、日常のどこかに『逆光のメディチ』の空気を知らず知らずさがしている感じがします。あれが結末でなく、続編があったらいいのに・・・と悔やまれてなりません。
「あの図を印刷のために版に起こすとなれば、すべてを裏返しに彫らねばなりません。そのためには、何度にもわたる転写が必要です。精密な図の数々を正確に写すだけでも難しいのに、それを何度も繰り返していけば、必ず細部が不明瞭になります。ひとりでは、とても無理です」 レオナルドは、寄せる歳月が引き下した口角にわずかな笑みを滲ませた。 「私の描いた図は、すでに裏返しになっている」 フランチェスコは胸を突かれ、一瞬、言葉を失った。彼の脳裏でその時、見慣れたはずの数々のレオナルドの素描画が、大きな音とともに逆転したのだった。 レオナルドは微笑を広げながら、さえた瞳に諌めるような光を瞬かせた。 「初めから版のことを考えて、左右を逆に描いてきた。それをはっきりと知らしめるために、文字もまた、逆に書いた。すべてを忠実に写し取りさえすれば、そのまま版になるようにだ。おまえは、私が酔狂で逆文字を使ってきたとでも思っていたのか」
はい。思っていました! 『ダヴィンチ・コード』でもトリックに用いられた、あの逆文字は、ダ・ヴィンチがそのあふれる才能をもてあましての戯れだと思っていました。 ことの真偽はわかりませんが、なるほど!とうならされてしまいました。
|