2006年01月15日(日) |
奥田英朗『イン・ザ・プール』 |
アザラシのような見た目でいかにもヤブ風名医伊良部先生が迷える患者さんたちをいつの間にかすっきり治してしまうんです。 直木賞を受賞した『空中ブランコ』のシリーズ第1作短編集です。 でも、読んでみて、まあ、面白くはあったんだけど・・・。
『空中ブランコ』が断然キャラだっていてテンポもよくって痛快だったから期待が過ぎたのかもしれないな。 伊良部先生らしさが今ひとつ。 「フレンズ」は人とつながっていないと不安でしょうがない携帯依存症の少年の話。 私にとってはものすごく現実味のない心理だけど、今の若い子がこんな心理なのかもっていうのは想像に難くない感じ。 興味深いわ。
「看護婦さん、彼氏とかいないんですか」 無言でににらまれた。 「今度、一緒にカラオケでもどうですか。なんちゃって」おどけて口をすぼめる。 マユミさんは注射器やアンプルを棚にしまっていた。 「あんた、ほんとはネクラでしょう」マユミさんがぼそりと言った。 ドキリとした。 「ネクラだってばれるのが怖いから、よくしゃべるんだよ」 「あ、やだなあ、看護婦さん、マジになって。冗談で言っただけですよ」 「汗かいてるよ」 「かいてないッスよ。何言ってんですか」軽く笑いたかったが頬がひきつった。 「大変だね、今日びの高校生は」 マユミさんは椅子に腰をおろし、たばこに火を点けた。太ももも露に足を組む。気だるそうに自分の吐いた煙を眺めていた。
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