2004年10月29日(金) |
ハルモニア 篠田節子 |
篠田節子 文春文庫 2001
STORY: 脳に障害があり施設で暮らす由希。音楽の特殊な能力があることを見抜かれ福祉施設を訪れていたチェリスト東野が由希にチェロを教えることになる。由希はみるみるうちに上達するが、そのたびに不可解なことが起こる。人の真似しかできない由希に自分の音楽をつかませようと東野は奔走するが・・・。
感想: 久しぶりに面白い篠田節子の作品だった。先日読んだ『カノン』はどろどろとしていてあまり面白くなかったのだが、こちらの方が純粋にのめりこむことができた。
障害がありながらも音楽に類まれなる才能を見出す由希。見よう見まねでチェロを始めるが、絶対音感はもとより、すばらしい音楽的才能があるために、師匠よりも技術的にはすぐに秀でてしまう。師は自分の弟子よりも演奏能力が劣ることを毎回のように感じさせられる。だが、弟子には欠けている部分があり、その欠けている部分を補おうと師はあらゆることを試そうとする。才能とか努力とか、本当にどうしようもならない部分がある芸術というものに、どうして人はこうも振り回されるのか。好きで努力もしたからといって報われる世界ではない。そこに嫉妬や羨望が生まれる。師である東野の気持ちが痛いまでに伝わってきてすごく説得力があった。
演奏家として生きていけるかもしれないチャンスがめぐってきても、チェロの弦が切れたことにより、一番クライマックスの重要なシーンで舞台を去らねばならなくなった悲しさ・・・。自分の見果てぬ夢を弟子に託したいと思いつつ、その欠陥を認識しほっとしたり、それでもやはり自分が果たせなかった音を追い求めてしまう姿は、芸術に魅せられた人にならよくわかる心情なのかもしれない。
自分もバイオリンを習っていたので弦楽器というテーマがあるとついつい手に取りたくなってしまう。篠田節子はチェロに関する作品があるが、自身が楽器をやっていたのだろうか? その描かれている音楽の世界はどれも非常に詳しく、またすごく説得力がある。きっとチェロかはわからないが、クラシックの世界にいたことがあるのではないかと想像するのだが・・・。
★他に読んだ篠田節子さんの本 ・カノン(その感想ページ) ・百年の恋(その感想ページ) ・贋作師(その感想ページ)
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