篠田節子 文春文庫 1999
STORY: 学生時代に一緒に演奏をしていた康臣が自殺。音楽教師をしている瑞穂に彼が死ぬ間際まで演奏していたテープが渡る。そのテープを聞いた日から瑞穂の周りで不思議なことが起こり始めて…。
感想(ネタばれあり): オカルト的な内容が途中まで続くのだが、謎は結局解き明かされない。でも、まあそれでもよいのかもしれない。
学生時代の瑞穂、康臣、そして正寛…。この3人で演奏合宿をするのであるが、その内容は壮絶だ。学生時代の恋といえばそうなのだろうが、中に描かれるのはよくわからない出来事。でも、それを受け入れてしまう女心はわからないような気もしなくもない。しかし、堕胎という結末に至って、瑞穂の青春も音楽への志も終わってしまう。
その後、それぞれの道を歩み始めた3人。瑞穂は音楽教師としてやりがいのある日々を過ごしていたはずだが、自分を納得させて平凡な人生を演じていただけに過ぎないのかも…と気づいたときに、教師を辞め新たな人生を過ごそうとする。しかし、ここで家族も捨てようとした瑞穂にはびっくりした。とはいえ、最後には家族は捨てられないでいたのは、ちょっとほっとした。
才能にあふれ、何でもできたはずの康臣が、自ら欠けていたもののために、転落一途の人生を送り、最後には自らの命を絶つ。その一方で正寛はすべて成功しているかに見えつつ、やはりそれは無理をしつづけた結果であるということに気づく。瑞穂もまた平凡な女としての人生に飽きてきていることに気づく。二人の心を康臣のテープが揺さぶったのだ。
けれど、私は思う。どんな人だって、みんな若い頃に進みたかった道に進めるわけでもなく、どうしてこんな道をたどってきたんだろう…などと思いながらも、毎日を生きているのだと。だから、その意味で、康臣のテープが引き金になったとはいえ、瑞穂も正寛も家庭を捨てて、一人で生きていこうとする姿勢にはちょっと納得がいかなかったような気もした。
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