宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2007年02月14日(水) 花森安治の仕事/酒井寛
暮しの手帖の編集会議で、花森がなにかのことで怒りだし、
激して、「ペンと剣」にふれてゆくところが、録音テープに残されている。
録音の日時は、わからない。
以下、その部分を再現する。
花森は、ときに、どなるようにしゃべっている。

「…もうちょっと、文章を上手になれということだ。
ジャーナリストは、言葉を軽視しておったんでは仕事にならんぞ。
自衛隊はどんどん訓練しとるわ。
武器の使い方から、人間の動かし方から。
われわれは、なにを訓練しておるんだ。
われわれの武器は、文字だよ、言葉だよ、文章だよ。
それについて、われわれはどれだけ訓練しているか。
それで言葉はむなしい、文章は力のまえによわい、なんて平気で言うんだ。
ぼくは、そう思わんよ。
ぼくはやはり、ペンは剣に勝つと思うんだ。
思っているだけじゃ、だめだ。
剣が訓練している何倍も、ペンもトレーニングしなくちゃ、だめなんだ。
世間がぜんぶ、もはやペンは無力であると言っても、
ぼくはジャーナリストだから、それを信じないんだ。
一生かかって剣に勝つことができなくても、ぼくはやはり、
剣よりペンを信じるんだ。
信じない人間が、どうして勝つことができるか。
信じていたって、トレーニングしたって、勝つかどうかはわからん。
しかし、われわれは、信じるほかに道はないんだ。
あまっちょろい、きざな文章を書いていて、それで世の中が動くと思うのか。
相手の肺腑をえぐるということは、ピストルにはできんぞ。
言葉はそれができると、ぼくは思う。
その力を諸君が信じなければ、この仕事も無意味だ。
武力は、青春を投入し、欲望も投入し、それひとすじでやっている。
おもしろおかしく世の中を渡って、しかも剣より強いペンを
作ることができると思うのか。…」

(それでは編集会議に入る、という言葉でテープは終わっている)


★花森安治の仕事/酒井寛★

マリ |MAIL






















My追加