登美彦氏が暮らしていた四畳半王国(=学生時代)においては、 時間と才能の空費は輝かしき勲章であった。 人間としての大きさが「無駄なこと」に注いだ時間と 才能の多寡ではかられる世界、いかに手のこんだ方法で 時間を棒に振ってみせるかで人の値打ちが決まる世界、 世間一般と真逆の価値観が支配する世界、 どう考えても根本的に間違っているとしか思われない世界、 というものが確かに存在する。 そこは偉大なる馬鹿王が君臨する地であり、 阿呆神へ捧げる祝詞の声は決してやむことがなく、 腕におぼえのある選りすぐりの学生たちが、 日夜、非のうちどころのないフォームで時間を棒に振り続ける。 「なんだか面白そうでいいなあ」と言う人がいるかもしれない。 その人は何も分かっていない。
★この門をくぐるものは一切の高望みを捨てよ/森見登美彦★
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