■アマー(28歳 フランス)
(ナレーション) なんとか5日遅れで宿泊料を支払ったアマー。 彼が来日するのはこれで4回目。 パリでお金を貯めては日本に来て、今回も1ヶ月滞在しているという。
「いつの日かフランスの新聞社でカメラマンとして 働きたいんだ。世界中で撮った写真を載せてもらう。 それがオレの夢さ」
(ナレーション) 明日、1ヶ月の滞在を終えて、関西国際空港から帰国するというアマー。 大阪までのチケットを買っていた。
─新幹線の切符? 「いや、バスなんだ」 ─なぜバスなの? 「安いからさ」 ─お金はあといくらあるの? 「日本円で…1000円だ」 ─たったそれだけ? 「少ないけど、明日帰るから大丈夫さ」
(ナレーション) 東京での最後の一日。 カメラを向けたのは、上野公園のホームレスの人々だった。 アマーはパリの大学で書類作りのアルバイトをしながら、 写真の勉強を続けているそうだ。
「母はアフリカの象牙海岸で生まれた。 父もセネガルの出身だ。 フランスでは若者が政府を信じられなくなってる。 黒人や白人ってすぐに区別するけど、本当は人類は一つのはずなんだ。 肌の色は関係ないはずさ」
─なぜパリから出たいの? 「変わりたいんだよ」 ─何を変えたいの? 「人生を変えたいんだ、…1ヶ月でもいいから」
(ナレーション) 夢と現実の間で揺れるアマー。 でも日本にこだわる理由はなんなんだろう?
◇
(ナレーション) 帰国前の最後の夜。 カメラマン志望のアマーは渋谷に来ていた。
「友達になった日本人の写真を撮りたいんだ。 さよならも言いたいしね」
「そこに座って」 やってきたのはレコードショップの店先。 そこで働いている日本人と友達になったらしい。
─彼とはどういう風に知り合ったんですか? 「彼は店に来て、あの気に入ってくれたんですよね、 うちのセレクションが。彼すごいヒップホップが好きで」
─詳しいんですか? 「大好きですね。 フランス人なんですけど、フランスはあの、マイノリティなんで。 ピップホップは、黒人はマイノリティなんですよね。 サッカーは黒人多いじゃないですか、フランスカップとか。 でも音楽はやっぱり、フランスは保守的なんで、 ヒップホップなんて入ってこないんですよ」
─(アマーに)なぜ彼と友だちになったの? 「オレの好きな黒人ミュージシャンのJ・ディラを知っていたからさ」
「J・ディラっていう人が彼はすごく好きなんですよ。 デトロイトのヒップホップのミュージシャンなんですけど。 死んじゃったんですよ、最近。 (アマーに英語で)J・ディラは僕の人生を変えたよ」 「(レコードショップの人に向かって)オレは違うやり方でやる。 写真家になって人生を変えるんだ」 「写真家なの?」 「目指してるのさ」 「またね」 「サンキューバイバイ」
◇
(ナレーション) アマーが渋谷から戻ってきたのは深夜1時すぎ。 ずっと疑問に思っていた答えを教えてくれた。
「なんで日本を好きか知りたいかい?」 ─知りたいよ。 「なぜって、日本の人々が…すばらしいからだよ」 ─すばらしいって、君に? 「日本の人々は本当にすばらしいよ。すごく優しいんだ」
★東京山谷 バックパッカーたちのTOKYO/72時間★
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