父はよく、 「夜中に目が覚めたらパパを起こしていいよ」と言って 私とユキに「おやすみ」をして、母と子供部屋の電気を消した。 だから、ちょっとでも目が覚めたら(たとえ本当は眠くても) 無理しておきて、暗くて少しこわい廊下を足早に通りすぎて、 さりげなく両親の部屋のドアを開けた。 大抵、気配で目を覚ますのは父。 私は起きてくれることを期待しながらわざとドアのギィっと 音がするように押してみる。 「子供が眠れないのはおなかがすいているからだ」 というのが両親の考えだった。 だから「眠れないの…」と演出したような困った小声でいうと、 もれなく堂々と夜中のまっくらなキッチンの電気をつけて、 父とバナナを食べることができた。
★おわらない夏/小澤征良★
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