小林 でもぼくはあれだな、 批評なんか書いてるせいもあるけれども、 正宗さんというのは、 書いてるものを重んじないだろう、ちっとも。 書いてるものを重んじる人はぼくは面倒くさいのだな。 だから正宗さんみたいに全然重んじない人にはね、 まだもう一つ先があるのだ。 文学よりもう一つ先のものがある。 それがいつも頭にあってね。 文学なんてものは手前のものでね、 別にどうということもないという考えが いつもあるだろう。
ああいう精神というのは私には 魅力があるのだな。 そこが非常にサバサバしているのだ。 サバサバして純粋だね。 文学を信じている人にも、 いろいろ面白いところがあるけれどもね。 だけれども面倒臭いこともあるよね。
河上 それはお互いさまだよ、君にもある。
小林 なかなかそういう精神というのは やっぱりあるようでないな。
河上 うん。
小林 文学を軽んずる人はたくさんある。 あるけれども、その代わり何も重んじてないよ。 いくら文学というものに夢中になっても、 結局はあまり面白いものではないという、 そういう精神ね。 そういう精神はやっぱり稀だな。 まあそこまでいかないと、精神というものは さっぱりしないからな。
★白鳥の精神/小林秀雄×河上徹太郎★
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