宿題

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2006年03月30日(木) 米国芸術協会における公演(1971年)/カート・ヴォネガット
ひと月前に、うちの息子が、これまでの生涯のうち最も幸せな日はいつであったか、
とわたしに尋ねました。息子はいわば、わたしの墓穴の中に質問を放ったのです。
この公演はお墓だらけですな。
息子はわたしのことを死んでいるも同然と考えたのです。



わたしは穴の底から天井を見上げて、こう答えました。
「これまででいちばん幸せを感じた日は一九四五年十月に経験した。
アメリカ合衆国陸軍から除隊されてまもなくだ。
あのウォルト・ディズニー時代には、合衆国陸軍はまだ名誉ある組織だったがね。
その日、私はシカゴ大学の人類学部に入学を許された。
心のなかで叫んだな━━『やっと入れたぞ!これからは人間のことを学ぶんだ』
私は形質人類学から勉強をはじめました。
頭蓋骨に穴をあけ、そこから精米の粒をいっぱいになるまで入れ、
あとでその米粒を計量カップにあける。
これは退屈な作業でした。
そのあと考古学に切り換えまして、とうに知っていたことを教えられました。
人間は歴史のあけぼの以来、陶器を作ったり壊したりしてきたということを。
そこでわたしは学習指導教授のところへ行き、
自然科学にはどうしても興味が持てず、詩の世界に憧れています、
と告白しました。
わたしは落ち込んでいました。もしほんとうに詩の世界に入ったら、
家内も父もきっと私を殺したくなるだろうと思っていましたから。
指導教授はにこやかな顔で言いました、
「自然科学のようなふりをしている詩を学んだらどうかね」
「そんなことが可能なんですか」
指導教授はわたしの手を握って言いました、
「社会人類学ないし文化人類学の領域にきみを歓迎するよ」


★米国芸術協会における公演(1971年)/カート・ヴォネガット★

マリ |MAIL






















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