突然、そこで迷わずにズタズタに引き裂く。 ネクタイの不意をついて、隠し持っていたカッターを取り出して縦にスッと切る。 何度も切れ目を入れる。 「これは、誰から贈られたものだったっけかな」 本当はわかっているくせに、わざとプレゼントしてくれた人のことを思い出しはしない。 こうして、ネクタイがその人間の身替りになっただけのこと。 ようやく切れ目を得たことによって、ネクタイは細切れになろうとしていた。 大袈裟に鼻息を荒くして、両側を引っ張ると簡単にそれはボロボロに引きちぎれた。 恐らく、その作業の最中は、何とも快楽の表情であったに違いない。 あらかじめビデオカメラなどを準備して、撮影しておけばよかったのだ。 ネクタイ自身に罪はないけれど、仕方がない。 贈った主の顔面を、いま手にしたカッターでズタズタにするよりかは、いかにましなことか。 とりあえず、この瞬間はそれで済んだ。
★女たちのやさしさについて考えた/中原昌也★
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