昭和三十年頃といえば、いまから三十年程前のことにすぎない。 その昭和三十年にまだ焦土の面影をとどめた首都圏内に 天元教という新宗教が登場したことがある。 これを報じた当時の新聞記事(「内外タイムス」)を藤沢衛彦編『妖異風俗』 が紹介している。
天元教の主旨は、 「もろもろの不幸は、ことごとく初恋のたたりである。 だから初恋の生霊、死霊を祓い浄めてつき進めば、 未来は祝福され、幸運が招来される」 というものだったという。 初恋の女(または男)とそいとげずに、その後にあらわれた異性と結婚する。 すると初恋の女の思いが霊となって残り、それが新家庭の福をことごとくに妨害する、 という言い分である。 「わたしが・棄てた・女」の怨みがいまでもそこらに漂っているということだろう。
★迷信博覧会/種村季弘★
|