━関西と関東の風習のちがいなんだけれども、浜松からこっちは、 だいたいまわしをとる。 自分のとこにいた女が「ちょっといってきますよ」ってんで、 べつの部屋へ行くわけですな。 お酉さまの晩なんざあ、達者なおいらんは十一人くらいまわしちゃう。 江戸の客は、まわしをとられるってことに、多少のジンケス(やきもち)はあるが、 それがまたおもしろかった。 大阪ふうにひと晩じゅう買いっきりなら、だいじにされるにきまってる。 まわしをとりながらほれられてこそ、ほんとうの腕があるんだというところですね。
先生のお説のとおりです。 と、いいますと、関西のかたには申しわけないんですけども、 あちらのほうは、自分で買った女だから、ずうっとそばにいろってえんですね。 こっちじゃあ、「買ったんだから、おれのもんだ」とはいわないで、 帰ってくるのをたのしみに待ってる。 「一夜遊びの味はこれだよ」ってんでもって、イキがってるんです(笑)。
━「おまえ、いっといでよ」といって、色男がってるのもオツですよ(笑)。
新内流しをききながら、廊下の物音に耳を立ててる。 あれもいい気分でござんすな。 バタン、バタン、ぞうりの音がきこえて、おいらんが帰ってくる。 寝たふりをしたりして……(笑)。 マブ(情人)になってくると、おいらんがぞうりを手にもってはいってきて、 ふとんの下にかくす。
━ぞうりをかくされるようになったら、しめたもんですね(笑)。 まわしの客がおおぜいいるなかで、自分だけもてようってんだから、 たいへんなスポーツですよ。
★徳川夢声の問答有用/桜川忠七★
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