「明石さんってどうです?」 小津が言った。 「どうって何が」 「だからね、あなたという未曾有の阿呆で醜悪無比な人間をですよ、 理解できてしまう不幸な人間はこれまで僕しかいなかったわけだけれども」 「やかましい」 「彼女はそれができる。これは好機だ。 この好機を掴まないと、あなたにはもう手の施しようがない」 小津は下劣な笑みを浮かべて私を眺めた。 私は手を振って彼を制した。 「あのね、君。俺は、俺のような人間を理解できる女性は嫌だ。 もっと何かこう、ふはふはして、繊細微妙で夢のような、 美しいものだけで頭がいっぱいな黒髪の乙女がいい」
★四畳半神話大系/森見登美彦★
|