内田 しかしね、師匠、あんたさんはこないだ東横じゃ とんがらしが乾いたような顔をしていましたね。(笑) こうやって咫尺に伺ってみると、みずみずしいいいおじいさんだねえ。
志ん生 わたしは飛行機って大嫌いだから…。
内田 大嫌いってまだ乗らないんでしょう。
志ん生 乗らなくてもリクツで、わたしはそういう高いところへ行くのがきらいなんです。
内田 嫌いといえばきりがないや。そうお嫌いなさんな。一ぺん僕とのろうか。
──しかし先生もお乗りにならないでしょう。
内田 乗らないけど、志ん生さんを乗っけるんだもの。 つまり、人の嫌うことなら僕はしてもいいよ。
内田 僕のこれは近眼鏡だから、しかし度が狂ってるから、 これをかけて外へ出ると、外界というものはひどく漠然としている。 しかし、あなたの頭に毛がないくらいは見えますよ。 この眼鏡で…。(笑)
内田 逆さになぜるといくらか触りますかね。(笑)
内田 妖怪だね。光頭の勘か。
内田 あんたさんがああいうところの高座で出たり入ったりする様子を拝見して 僕はすっかり崇拝したね。いいかっこうしてお歩きになるからね。 腰は少々曲がってる、その曲がったところを利用してさ。(笑) こんなたけだけしいじじいとは思わなかった。 とんがらしのような顔してると思ったら、 こうやってみるとお若いもの。やっぱりなぜてみればあるのかもしれない。
志ん生 あなた、それだけあれば大したもんだ。
内田 年とって毛が生えてるやつにろくな者はいない。
志ん生 わたしは二十三年生れ。
内田 これは驚いた。びっくり仰天だ。 僕は明治二十二年五月二十九日午前十一時、一つ上だよ。 だからさっき志ん生師匠を上座にしなきゃいけないと考えてたけど、 年の順だもの、年下のものは下座へ下がってもらう。
(対談が終わることになって) 内田 ちょっと志ん生さん、握手しよう。 クソじじい、よかったね。
志ん生 みんなクソじじいだ。年をとれば…。
内田 だって僕より年下じゃないか。
志ん生 一つ違いだから同じようなもんだ。
内田 ずっと智恵が違う。一年が大事だ。
★深夜の初会/内田百間×古今亭志ん生★
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