運転はそうむずかしいこともなく、仮免許まではトントン拍子、 卒業試験も二、三数程オーバーで受かった。 そのときは、嬉しかった。 バカなおれは免許証を入れた背広の内ポケットを何回も上から押さえ、 それを仲間に見せたくてたまらない。 コトもあろうに演奏中、熱中して叩いているハナちゃんの、 空いているドラムの上にそっと置いた。 空いているといってもその瞬間だけで、すぐ続けて叩くのだ。 彼は免許証をひょいとつまみあげ、そのままドラムを叩き続けて熱演していたが、 とぎれたときに、ぼくの顔を見上げて 「とったのか?」 とささやいてくれた。 本当なら演奏中だ。あとで激怒しても当然なのに、 彼はぼくのあふれ出る喜びに何気なく同調して「とったのか?」 ──ぼくはトロンボーンを吹きながら軽くうなずき返した。 彼のこの優しさはいま考えても嬉しくなる。 ハナちゃんという人は、そういう人だったのだ。
★七人のネコとトロンボーン/谷啓★
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