読み終わって私は(この世の中は面倒臭いものだナ)と思った。幸か?不幸か?此の頃ボクは美しい人間を、いく人もいく人も見つけだすのである。そんな筈はないと思っていたからだ。ああまた、思いがけないところに、こんな人がいたのだと僕の計画していた人生の予定が崩れてしまうのである。一体、過去の死んだ人達は、人間を美しいと思って死んで行ったのだろうか?それとも、僕のように餓鬼だとか、畜生だとかと愛想をつかして死んで行ったのだろうか?悪態をついて、吠えて死んで行く者がないのは臨終の時になってナニモノかに降参するのだ。それで菩薩になれるのだと思うけど深田先生のような即身成仏した姿に接すると(登山家なんかに)と今まで思っていたボクは「さあ、大変!」である。予定が狂って、この世の中がだんだんわけがわからなくなってしまうのだ。
★分からなくなってしまう日記/深沢七郎★
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