伊東 でも、それによって一歩前に出たということもあった。 自分らのやりたいことだけやってると行き詰まるね、あれは。 嫌なこともちょっとやんないと。努力しないと。
高田 ああ、そういうのを努力と言いますか。
伊東 そう。ぞろっぺえな我々にとっては努力。
◇
高田 基本的なことを伺いますけど、伊東さんて何人兄弟なんですか?
伊東 五人。三人男で下から二番目。生まれは下谷。家は下請けの洋服屋やってたんです。
◇
伊東 その船本(友達)と早稲田祭でやろうって落語芝居の台本書いてさ、 (尾上)松緑さんに見てもらいに楽屋尋ねて行ったんだよね。
高田 すごいね、どうも。怖いものなし。
伊東 番頭に怒られてね、「何なのあんた方」って。「いや、音羽屋さんに会いに…」
高田 ハハハハ、なにが音羽屋だ(笑)。
伊東 いい間の振りして(笑)。そしたら、ちょうどそこへ松緑さんが楽屋入りして来て。
高田 間がいいね。
伊東 よすぎる。いい形で入ってくるんだよ。
高田 お役者さまだね、やっぱり。
伊東 「さあさ、お入りなさい」って言ってくれたんで、 実はこれこれこういう訳で芝居を書いたんだけど、意見を聞かせていただきたいって。
高田 もうそこまで行くと…。
伊東 ばかの一種。でも読んでくれたもん、「弓張提灯」っていう外題なんだけど。 「よくできてます。芝居で苦しむのはわれわれです。 皆さん学生さんは絶対楽しんでやんなさいよ」って。
高田 金言だねえ。
伊東 こっちも感激しちゃったからさ、 「この間はきったない格好した学生風情がうかがって申し訳ありませんでした」 って松緑さんに手紙を出したらあなた、今度は京都から、絵馬になってる、 音羽屋のマークの入った木製の葉書が来た。
高田 ウワアーッ。
伊東 松緑さんの自筆でだよ、「京都の知人がこんな絵馬を作ってくれました。 どこかへかけておいて下さい」。人間が違うよー。
★笑うふたり/伊東四朗×高田文夫★
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