「『怪奇』みたいな番組もいいけど、あまり夢がひろがるものじゃないだろう。 どっちかっていうと、現実のショックを特殊効果で拡大して見せるようなものさ。 それがエスカレートすると、恐怖シリーズ、怪談話、残酷ものになる。 俺はさ、何度も平ちゃんに言ったと思うけど、 もっとメルヘンチックでファンタジーにあふれたものをやりたいんだ」
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「他人は甘っちょろいって言うかもしれないけど、俺は成るだけ人間のきれいな面だけを見て暮らしたいし、 『怪奇』のような人間の醜悪な面がひき起すドラマと、その醜悪さに奉仕する特撮はあまりやりたくないんだ。 特撮は目をうばうような綺麗なイメエジ、ファンタジーのために使いたいんだよ。 怪獣ほど純な心の持主はいないと思うね」
酔いつつしゃべる一の目は潤んでいた。
「一さん、……一さんも知ってるだろうけど、ぼくの好きな歌に、 ……空の海に、雲の浪立ち、月の舟、星の林に、こぎかくる見ゆ、……てのがあります。 夜空を見上げるときに、きまってこの人麻呂の歌がうかぶんだ。 ぼくはね、こんなのびやかな歌の調べが特撮で表現できたらなあって、 つねづね思ってるんですよ」
「いいなあ、雲の浪立ち月の舟、星の林にこぎかくる見ゆ、……か。 いいなあ、平ちゃん、自分の体の中に星の林がひろがって、 宇宙と同化してゆくような歌だなあ。 何て、SF的な歌なんだろう。はるかな昔に、こんな感性があるなんて」
★星の林に月の船/実相寺昭雄★
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