宿題

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2005年03月21日(月) カレーと下北沢と僕/辻修
何故か無性に美味しいものが食べたくなった。日本を食べ歩きたい。日本を食べてしまいたい。日本人なら日本語以外話すべきではない。優性人類である私が目指した場所は下北沢。そこは路上生活者さえも芸術である街。人生の勝ち組である私は新宿から贅沢にロマンスカーに乗車。車内販売の女中にビールとカキフライを注文するが後者は無いと言う。全くこれだから素人は困る。おそらく彼女は山国の田舎から出てきたばかりで故郷に老いた父母や夢敗れた兄がいるに違いない。ロマンスカーが下北沢を通過してゆく。ロマンスカーは下北沢に止まらない。旅はいい。損害が心地良い。各駅停車でぶらり折り返す計画に変更する。我、下北沢に上陸す。駅構内の立ち食いソバが私を誘惑する。が、ここは我慢すべきである。忍の一文字である。旨いものはどこだ。熱い、ノドが熱い。ノドがナニかを欲しがっている。乱れた人妻のように欲している。欲しい、アレが欲しいィ。何が欲しい?言え。アレじゃわからん、言え、姦婦め。見つめないでください、目がつぶれます、お止めください。だまれ、こんな目などいらぬ。片方やる、もうひとつ欲しいならば、来い、くれてやる、取れ。ああ、美味しいアレ。舌で感じるアレ、汗が吹き出て、でもやめられない、アレーでございます。カレーだな。このインド人め、コブラめ、姦婦め。アレーとカレーとはダジャレのつもりなのか、下北沢の芸術的おもしろさを愚弄するのか、ダジャレとは負の産物である。ならば下北沢の下を下ネタの下と呼ぶのか。ならば、上北沢で俳句を詠めばいい。が、帝国海軍も愛したライスカレーである。味に貴賎なし。下北沢は日本のインドである。私は微笑み、許す。慈、の一文字である。インドとは非暴力主義であった。その後、私が聖なる汗を流したのは言うまでもあるまい。
と、私のメモにははっきりと残されている。何様のつもりだろうか、私には才能などないのだ。偽善、独善、変質狂いのエゴイストめ。改めて記すことにする。天気、晴れ。下北沢には笑顔が満ち溢れている。みな浮かれている。結構なことだ。私も調子をあわせてやや浮かれてみる。が、なかなか難しい。笑顔がどうにもほほのあたりがピクピクと震えてしまう。私は下北沢に拒絶されているのだ。この感覚はどこかで経験したことがある。旅だ。旅に出てもイマイチ楽しみ方がわからない。楽しんでいるフリをして口元はにやけてはいるが、こころでは泣いているのだ。楽しむ資格さえ与えてもらえないのか。だがね、諸君、悲しくとも、辛くとも、腹は減るのだ。忌々しい。ケダモノだ。どの店なら私を迎えてくれるというのか。イタリアン。陽気な地中海。無理だ。寿司か。私は威勢の悪さには自信がある。ハンバーガー。どうやって食べればいい。食べ方を店員に聞けば私はまた変人扱いさせるだろう。空腹で朦朧とした意識の中、私はところ狭しと並べられた席に座っていた。しかも自然に、座れていた。嬉しい、ただ嬉しい。テーブルの下で手を小さく、ささやかに握りしめた。そこは、カレー屋だった。注文を聞いてくれたのは、指がとても細い女性であった。さぞかし美しい容姿をしているのであろう。カレー。二文字を少し伸ばした。カレーですね。彼女ははっきりとそう言い返した。聞こえている。僕の声があの人の耳に聞こえている。さぞかし美しい耳に違いない。運ばれてきた、僕のために作られてた僕専用のカレーだ。温かい湯気が私を包む。厳冬の故郷を思う。旨い。辛い。味がする、カレーライスの味がする。旨い。人間だから、生きているから、旨い。辛い。私の腹はすぐいっぱいになってしまう。申し訳がない。いつだってそうやって友を裏切ってきたのだ。違う。これだけは約束してやる。私を信用しないやつは馬鹿だ。僕だけは君を裏切らない。皿の中央にスプーンを落とした。カチャンと音がした。全部、残さず食べた。生まれて初めて聞いた音だ。私はこの小さな旅で、下北沢という不似合いな街で、私は、はじめて、わらった。そして現在、私の頭は例の女性の膝の上にあるのだ。(完)
なんだこれは。ニセ文学を書いてしまった。それにしてもひどい。だめだ。私は極端すぎるのだ。もっと等身大でよいのではないだろうか。では、はじまりはじまりい。今日も下北に行かなきゃなあ。お腹減ってんのかなあ、今。サイフの中にいくらあったっけ。千円ある。あれ、昨夜なにがあったんだ。一万円札はどこへいった。思い出せない。ま、いいや。後で誰かに聞こう。カレー屋があるな。旨いのかなあ。みんな美味しそうに食べているけどあれは嘘だな。入るぞ。いらっしゃい、と僕が言う。エビカレーをください。エビが少ない。味はふつう。食事っていうより補給って感じ。くちゃくちゃ噛む。さっきまでエビカレーだったのに今はゴミに見えてくるから不思議だ。エビのゴミ。コックはゴミ処理場の人だ。まいどあり、と僕が言う。下北沢は人が多いなあ。失神しそうになる。この人たちの内、5%がいなくなればいいのに。にゃあにゃあ。猫だ。君、一緒に岐阜へ旅に出ないか、旅費はワリカンだが。ううお腹が痛くなってきた。下北沢でカレーなんか食べたからだ。岐阜の鮨の方が百倍旨い。ミサイルが下北のカレー屋に撃ちこまれる前に岐阜へ行くべきだ。痛い。引っ掻くなよ、もう。ワアアアアアアア。怒られるぞ。助けてくれ。いいこと考えた。今からしばらく空欄にするけどすごくいいことが書いてあることにしよう。すばらしい、オレは勝ったのだ。


助けてくれ。何でこんなに悩まなきゃいかんのだ。文の冒頭からここまで様々な発想の転換を繰り返しここまできた。まるで人生のようだね。ああ、僕はいま下北沢の街で人生という長い長い旅をカレーライスの最後の晩餐で終えようとしているのだね。トラブル(トラベル)もいっぱいしてきた(下北)ね。華麗に(カレーに)生きてきたのだね。う、うわあ、死にたい。上手くもなんともない。頭が破裂しそうなので、お風呂に入って寝ます。


★カレーと下北沢と僕◇動物電気2005年公演「寝太郎の新作カレー」パンフレットから/辻修★

マリ |MAIL






















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