「さて、結婚とは文化であります」
「文化などと大げさな言葉を申し上げましたが、実はまったく些末な事柄なのです。
先日、サッカーの中継をみていたら、アフリカの選手がゴールを決めたときに、
不思議な踊りをしました。あの踊りが我々には分からない。
だけど彼らにとっては重要な意味がある。彼らをして彼らたらしめるものといっていい。
文化というのは、そんな風に国や民族に生じる固有のものであります。
だけども、都道府県にだって、町にだってその地域ならではの文化が生じます。
そのように考えていけば、一番小さな文化の単位は家族、
ひいては夫婦ということになるのではないでしょうか」
「恋人が長くつきあうと、最近なんだか夫婦みたいだ、などといいます。
互いの存在に慣れてきて、かつてのときめきがなくなった。
ここでつい夫婦という言葉をネガティブなものとしてとらえがちになりますが、
それは違います」
「夫婦のようになった、と感じるとき、その二人の間には確かに文化が芽生えているのです。
食卓でそれとって、といっただけで『それ』がソースか醤油か分かる。
たてつけの悪い扉を開けるときの近田の入れ加減を二人だけが会得している。
そういう些細なものの集合はすべて文化で、外側の人には得られないものなのです」
「今の時代、籍を入れて結婚することの意味はゆらいでいます」
「籍を入れずに同棲することを選ぶカップルもいます。恋人のままでもいいじゃないか、と。
だけれども、これは断言してもよいですが、文化のない場所に人間は長くいられません」
「お二人は夫婦という文化に守られるのではなく、
結婚によって自分たちを守る文化を築いていってください」
★パラレル/長嶋有★
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