──そう。私はこの世のあれもこれもが愛おしくてたまらない。
雑貨屋は面白いか?と彼に尋ねたとき、すぐに返ってきた彼の答えだった。
目尻に皺が集まり、「あれもこれも」と、両手を拡げながら強調して言った。
その様子がこちらの頭に焼きついて、さっそく私も、「あれもこれも」を描くことになった。
まずは目の前にあった黒パンをひとつ。やはり12枚。それを自分に課すことに決めた。
どんなものでも、とりあえず1ダースは描いてみること。
じつに雑貨屋的影響力の表れだった。
黒パンを描き終わると、隣にあった胡桃を描いた。
次には、その隣に転がっていた林檎をふたつ描いた。
そうしてテーブルの上のものはひととおり描いてみたが、描き終わってしまえば、
たいていのものは食べてしまった。
次々、パスパルトゥが運んでくれるので、私は一歩も外へ出ることなく、
一日中、テーブルの上のものを描いては食べて暮らしていた、
素直に「あれもこれも」と口ずさめば、描くものは無限にある。
★針がとぶ/吉田篤弘★
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