横尾 「ぼくの生理と感情とはまったく分離されています。
宝塚に行って二回目ぐらいのとき、ある人がそれで宝塚をやめる、という楽日だったんです。
ぼくはまだ宝塚のことをぜんぜん知らなかったし、トップがやめるかどうかなんて、
もともと『やめようと思うならやめればいいじゃない』ぐらいに思っていたんだけど。
ただ、やめるというその人が、袴を着て花を持って、挨拶をすると、
劇場中が、もう嗚咽なんです」 タモリ 「ええ」 横尾 「そうするともう、ぼくは別にかなしくも何ともないのに、涙がボロボロ流れてきて」
◇
横尾 「別に、泣いたとしても、それで情を感じてるわけでもないの。
前にも、なんだったかな、『ぴあ』で素人の人が映画を作って、
それの審査やったとき、受賞式で表彰状を渡さないといけなかったんですよ。
ぼくが読まなきゃいけない。
で、読んでるあいだじゅう、涙がポロポロ流れてさ、最後まで読めないわけ…」 タモリ 「あはははは!」 横尾 「だけど、ぼく自身は、うれしくもかなしくもないわけで。
だけど涙が止まらなくて、最後まで読めなかった」
タモリ 「それ、すごい!横尾さん、すごい…」 糸井 「ぼくは今まで、賞状を読む側の人が泣いてるのは、見たことがない! 」
タモリ 「見たことねぇ!」
タモリ 「横尾さんのような、クールに『感情はどうだっていい』って人が泣くのがすごい」
横尾 「そう矛盾しているでしょう?大賞を受賞したのは夫婦だったんです。
彼らの感情がうつったんです」
タモリ 「先に向こうが泣いたんですか? 」
横尾 「いや、向こうはニコニコしてる」 タモリ 「(笑)うつってない」 横尾 「夫婦で合作で作ったものが受賞して、もう大よろこびなんですよ。
その大よろこびの姿を見たとたんに、涙が流れてきてさ…もう声が詰まってしまって、
最後まで読めない」
糸井 「つまり、それは、『よかったね』っていう思いぐらいは、
あったんじゃないですか? 」
横尾 「いや、大した思いはないんですよ!
そりゃ誰もが『よかったね』と思う程度ですね」
★Y字路談義。第17回/横尾忠則×タモリ★
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