六歳のあるいは十歳の兄が、私の中に居るので、私は只の人としての自覚を、
こと絵を描く時に強く持った。
青春期に絵を描く学校に居て、友人の何人かは、明らかに自分の天分を信じていた。
私は多分、そのような錯覚なり、自身なりを一度として持ったことがなかった。
只の人として、絵を描き続けることで、ほとんどの人が、只の人だということがわかった。
そして、只の人も、それぞれかけがえのない自分であることを学んだ。
只の人がますます只の自分であることに、かぎりなく近づいてゆくということは、
面白いことだった。
★私の猫たち許してほしい/佐野洋子★
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