トイレから出てくると、そんなに長い時間ではなかったはずなのに、
西山の作業はだいぶ進んでいた。閉められたふすまには、
底辺が十五センチメートルくらいの直角二等辺三角形がいくつも開けられていた。
いちばん右の三角の隣で、西山が定規とカッターで
びっくりするようなスピードと正確さで三角形を切り取っていた。
「なにしてんねん。おれ、引っ越したばかりやぞ」
「三角、好きなんや」
「じゃあ自分ちでやれよ」
「いや、このふすまがいい」
「またあとにしよ、明日の朝がええわ。な」
「そうか」
西山は意外と素直に定規とカッターを置いて、ふすまを開けた。
坂本はずっと同じところに座って笑っていて、かわちは遠くでじっとしていた。
ぼくは、あんまり酒買ってこないほうがよかったなと思っていた。
★きょうのできごと/柴崎友香★
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