宿題
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2004年06月11日(金)
アップルパイの午後/尾崎翠
言語学は塩もお砂糖もない学問です。
考えながら歩いていた詩人が煉瓦塀につき当って鼻眼鏡をこわしたとしたら、
彼は自身が足と同時に頭を働かしていたことに腹を立てるより、
煉瓦塀に腹を立てるはずです。
哲学は思ったより愛嬌のある顔をしています。
塩と砂糖でかくし化粧をしています。
正面の粉胡椒はこな白粉にすぎません。
煉瓦塀で眼鏡をこわした詩人は、こんどは新調の鼻眼鏡の中ですこし目を細めました。
今夜の眼鏡の前にある横顔がかくした化粧のためとはいえ案外美人だったからでしょう。
★アップルパイの午後/尾崎翠★
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