宿題

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2004年05月27日(木) やらしい本のことなんか/佐野洋子
しばらくすると、「りべらる」という本を母親が、

村の時計屋さんの小父さんから借りて、押し入れの中にかくしていた。

かくしてあるものはやらしいものだから、

私は母親が裏の畑でなすびなどを作っている間に、隠れて読んだ。

やらしいことが沢山書いてあったにちがいなく、

やらしいさし絵が沢山あったけど、私は、やらしいことなど何も知らないから、

やらしい雰囲気だけが、押し入れの中に充満し、物音がした時の、

グビッグビッと汗がふき出て、体が大きく二度ばかり起き上がる

真昼の驚愕は一体何だったのだろう。

「りべらる」は戦後のいわゆるカストリ雑誌の大御所だったと、

月日が夢のように流れたあとに知った。

山梨の山また山の山奥に、「りべらる」がしのび込み、太宰治はしのび込まないという、

文化の伝播経路に私は大変興味をおぼえる。

やらしいことだけが韋駄天の様にかけめぐったということが、

日本の戦後復興に大きく貢献したのよね。

きっとやらしいことだけが真の人間再生のエネルギー源なのだから、

私の「きょうだい」はまた一人増殖した。


★やらしい本のことなんか/佐野洋子★

マリ |MAIL






















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