「E.T.」を観た。
私は子供達の母親が現れると涙が出て来た。
母親は殺気だって朝勤めに出るために子供をせき立てる。
母親があたふたと勤めから帰り紙袋をテーブルの上に置く、
そして母親が子供達と一緒にお祭り騒ぎにはしゃぐともう顔をそむけたくなった。
E.T.がシンプルすぎる程のメルヘン仕立てになっていることが不気味であった。
「人間はことばを持ってのコミュニケーションに絶望して
ことばを持たないものを求めてしまったんだね」
一緒に映画を観た人が云った。
本当にそうなのだろうか、私は世界中の人がかわいそうになった。
ことばを持たないE.T.に心を通じさせようとすることばを持つ人間の
日々の暮しが、「黄昏」を観て「フン」と云った女友達の暮しが。
「あなたがどこで泣いたかわかったよ」
私は声をあげて泣きたかった。ことばはまだ通じるじゃないの。
★いろんな人と一緒に映画を見た/佐野洋子★
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