彼らははじめておとずれた精神障害者の住処に一抹の不安をいだきながら玄関をくぐり、
台所に落ちているネズミの糞や破れたソファを見て見ぬふりをしながら、
「得体のしれないところに来てしまった」と身を固くして席につく。
ぎこちなく、どこか波長のちがう目の前の人びとにどう対すればいいのか。
白々しい時間のなかで上滑りなことばが口をついてしまう。
けれどしばらくするうちに、場を開くのはだいたい彼らなのだ。
「オラ、アッパラパーで・・・・・・」という早坂節や、
「あ、ども、みなさん、ども」と笑顔でひたすら気を使う佐々木さんや、
ぶすっと押し黙って時々悲しそうな目つきをしている岡本さん、
それにみんなのあいだでなにかブツブツいいながら
かいがいしく器を運ぶ高橋さんの姿を見ていると、
いつしか訪問者は身構えていた気持ちがやわらぎ、
どこかでほっとする思いを感じている時がある。
★悩む力/斉藤道雄★
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