芸術という概念は、上昇するところを常に前衛芸術に引き戻されて、
日常感覚のところまでダイレクトに、次第に露骨に接着される。
そのたびに芸術の概念そのものが、揺すぶられて、引っくり返されて、つかみ直されて、
もはや崩壊寸前のきわどい形になってくる。
芸術の概念の日常への接着へ進んだ結果、その接着がほんの一瞬の、
しかもほんのわずかな接点となってくるのだ。
日常の中にあるとはいえ、気をつけなければほとんど見えない。
気をつけてもほとんど見えない。何が芸術だかわからない。
芸術の概念を、日常の感覚につなげようとする前衛芸術は、
そうやって日常への接着を繰り返すうちに、日常に接着しすぎて、
接着というよりもその中にはいり込み、日常の無数のミクロの隙間から消えていった。
★千利休/赤瀬川原平★
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