宿題

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2003年12月26日(金) ニンゲン御破産/松尾スズキ
南北「あんた、聞けば、侍分を捨てたって話をしたな。

何かよほどのことがございましたな。あんた自身の話のほうが、おもしろそうだ。

この一両分の時間の中で、あんたというニンゲンの話を、

お金の匂いのする狂言にしたててくれよ」



ムツ「三ですよ!おもしろは!七は怒ってんです」



実ノ介「芝居という芝居が、実は、芝居という芝居のふりをした芝居であれば

いい芝居だなと思ってたんですが」



実ノ介「ほんと、誰かに、いつか否定してほしいんだけどね、(しみじみ)命ってさ、

言いたくないけど、重い軽いがあるからね。(刀をチンとさやに収める)

俺は否定できないよ。ただの、くだらない侍だから。

ただあんまし痛くならないように、ヤットウだけは、ちゃんと稽古したからな。勘弁よ」



南北「嘘か真か、命をはったガセ小判が二両。あんたの命の一かけ二かけと思って、

懐に抱きましょうか。ただし、これがガセだとわかれば、あたしも地獄行きだ。

それを覚悟に聞くだからして。こっから先のあんたの嘘に、これっぱかしも嘘が混じってたら、

いいかい、あんたも地獄に道連れだよ」

世阿弥「いいこと言いますね」

南北「…え?ごめん、今のそれ、批評?」

世阿弥「い、いやいや、……他意はないです。素直な、ほんと…ええ」



実ノ介「掘れ、掘れ。もっと深く掘ってくれ。この穴は俺の夢だ。

家も国も捨てた俺の夢が、そんなに浅いわけがない。

なあ、なんか見えるか。見えたら教えてくれよ。

しかし、江戸ってところは、俺と相性がいい。

国じゃ基地外扱いされた俺が、こうして、なんとか生きてる。

だから、この町で、俺は書きてえんだ。書きたくてしょうがないんだけどよ、

じゃ、何が書きてえのかっていうと、おもしれえことに、書きたいことが何もねえんだ。

おもしれえこと思いついてもよ、世のなかのの方が、先におもしろくなっちまうんだ。

でもよ、空っぽのはずはねえじゃねえか。掘れ。掘れ深く掘れ。

なんかあるだろう!おーーーーーい!」



灰次「…わからんが、とにかく、ふつうにしてろ」

お吉「(引き留める)ふつうって、何さ?」

灰次「お吉っぽくしてろ。おまえの持ってるお吉さしらを、あますところなく、醸し出してろ」

灰次、走り去る。

お吉「そんなの無理だよ!あんたがいうお吉って、どんなお吉さ?

そんなの、生まれてこの方、自分で決めさせてもらったことないもん!

わかんないよ、勝手なやつばっかだ。……ああ、嫌だ。もう、嫌だ」



南北「盛り上がって、よかったじゃない!これ以上、何が必要だ!」

間。

実ノ介「ほめてほしい!」

南北・世阿弥「はあ?」

実ノ介「天下の鶴屋南北、河竹世阿弥にほめてほしい!

日本を変えるような大芝居を打ったのに、なんの評価もいただいてないんです!」

南北・世阿弥「すごかったね」

南北「さあ、口ずけをしよう」

実ノ介「たりねえ!たりねえ!」

世阿弥「お上に背を向けるわ、ほめられたいわ!どっちかにしろ!

この、ほめられ乞食!」

南北「なあ、俺たちに、さわろうとしてごらん」

実ノ介、南北たちにさわろうとするが、どうしてもさわれない。

世阿弥「さわれないでしょ、あんたはまだ、あたしたちと同じ板の上にいないからよ」

実ノ介「同じ板?」

世阿弥「ほめてほしくば、こっちゃきやれ」


★ニンゲン御破産/松尾スズキ★




南北◇松尾スズキ
世阿弥◇宮藤官九郎
実ノ介◇中村官九郎
ムツ◇片桐はいり
灰次◇阿部サダヲ
お吉◇田畑智子

マリ |MAIL






















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