「いやさ、お前の家来て、おばさんに貧しい食事ご馳走になってるけど、
でもお前んちの方が不幸でさ、何だか中身が濃そうじゃん、
こんなこと言ったらもしかしたら失礼かもしれねえんだけどよ」
「ふーん、何だか失礼だわねェ、肉なんか引っぱらないでよ」
「でもおれ別に不幸じゃなかったぜ。テッチャンちが勝手にそう思ってくれたんだけど。
なら、山形は?」
と息子は言うのである。山形も又世間的には幸せのサンプルでない家庭であったのだ。
アル中の父親からのがれて一家四人が車の中で寝たりしたこともあるのだ。
「おれんち、おれんち普通ですよ。家なんか普通と思ってないとやってられないよ。
テッチャンちも普通、おばさんちも普通、普通じゃないのは、ケンの図々しさ」
「普通じゃないのはテッチャンの女々しさ」
「えー、おれ女々しい?」
家族をはみ出して、人はそれぞれつながって生きてゆく。
どんな家族であれ、家族をはみ出して人とつながってゆくのを支持してゆこうと思って、
やっぱり肉は女々しいテッチャンの皿にわけてやった。
★ふつうがえらい/佐野洋子★
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